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失踪


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彰、晴香、七瀬、そして坂神と月代も出ていった。
あれだけの人数がいたこの家もずいぶんと寂しくなった。
(雨……やまないな……)
降り続く雨を見ているとなぜか感傷的になった。一月以上この島にいるような気がするが実際は一週間も経っていない。
いろいろあった。
この島に来てから出会いと別れを繰り返してきた。
死を目の前にして心がどんどんすり減っていくような思いがする。
藤井さん。お姉ちゃん。澤倉先輩。佳乃ちゃん。先生……
私は何人もの人が死んでいくのをどうして耐えていられたのだろうか。
もしかして、私は狂ってしまったのか。
そう思ったこともある。
だけど、胸にこみ上げてくるものが、私がまだ正常だと安心させる。
涙は今、流すべきじゃない。
この島を抜け出たとき、そしてすべてが終わったとき。そのときに……
「どうした表を見て。また雷観賞か?」
そのときに……。

『ゴスッ』

ああ……。
ごめんなさい、先生。
約束、ちょっと破りたいと思ってしまいました。

「そういえば、そろそろ葉子さんの様子を見に行かなきゃ」
のたうち回っているバカはほっといて、私は自分の仕事をしよう。うん。
別に泣きそうになった照れ隠しじゃない。
そして、私は水の入った洗面器をとタオルを持って葉子さんの部屋に行った。
ノックをしようかと思ったが、寝ていたら悪いので静かにドアを開ける。
「おじゃましまー……ん?」
そこには、かなりの怪我をしていた葉子さんの姿はなく、丁寧に折り畳まれた毛布がベッドに置かれていた。
(い、いない。どこに行ったの? 家の中? それとも外?) 。
布団を触ってみる。まだ少し暖かい。と、いうことは、まだそんなに遠くには行っていないはずだ。
急いで階段を下り、居間に駆け込む。そして、あわてている私を見て怪訝そうな顔をしている二人に言う。
「柏木さん! 鹿沼さんがいないの!」

走る。
突然、降り始めた雨の中、鹿沼葉子は走る。
傷はまだ癒えていない。銃弾が貫通した腹部にはコルセットのように幾重も包帯が巻かれている。
足に巻かれた包帯はほどけて邪魔になったので捨てた。
髪が、服が、水を吸って重い。下着も濡れてしまい、肌に張り付く。
だが、そんなことは気にしていられない。
危険を予感させる胸騒ぎが止まらなかった。それが彼女を疾走させた。
先ほど感じた二つの大きな力。
間違いなく、不可視の力であろう。
しかし、一歩間違えれば暴走しそうな、そんな危うい力の発動であった。
もし、不可視の力が暴走してしまえば、辺り構わず破壊をもたらし続ける。
そして、それは使った本人が破壊されるまで続く……。

不可視の力というのは誰でも操れるというものではない。
葉子が知っている不可視の力の使い手は自分以外で二人。
天沢郁未と少年。
恐らく、その二人が使ったのだろう。
もしくは、彼女の知らない不可視の力を使える者がいるのであろうか?
生きている中で使えそうなのは、巳間晴香。序盤に高槻が行った放送で葉子、郁美、少年と共に呼ばれた者の中で生きているのは彼女だけだった。
そして、彼女がもう一つ腑に落ちなかったことがあった。
なぜ、封印されているはずの力がなぜ発動したのだろうか?
結界が無くなったのだろうか?
それはあり得ない。なぜなら、葉子の力は今でも発動できないからだ。
ならば、結界を凌駕する力、もしくは無効化する力を手に入れたのだろう。そう、葉子は結論づけた。
今の葉子では不可視の力に真っ向から対抗する術はない。それは本人もよく分かっている。
かといって、ベッドで一人震えているわけにもいかなかった。それは、不可視の力がどんなに危険なのかを知っていたからだ。
葉子は自分を助けてくれた人には黙って出てきて悪いとは思った。だが、出かけるのならば彼らを巻き込んでしまうかもしれない。だから、大した武器も持たずに走っている。
場合によっては、差し違えても彼女らを殺さなければいけない。そんな悲愴なことを考えているときだった。

不意に、背後から、
「誰だ!」
雨が地面や葉を叩く音を突き抜けてはっきりと男の声が葉子の耳に入る。
偶然か、それとも遠目で葉子を見つけ、隠れて通り過ぎたところを呼び止めたのか。どちらにしても迂闊だった。
そして、葉子は足を止める。男は銃を持っているかもしれない。
「鹿沼、よう、こ」
息も絶え絶えに、そう答えた。
そして、男は……


【鹿沼葉子、力の発生源を調べに移動中】
【男が誰かは次の書き手に】

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