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椎名繭は泣かない


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「っ!? 私、意識を失っていたの!?」
 繭は目覚めた。
 カラスの鳴き声と、獣の騒がしい鳴き声の中、誰かのすすりなく声が小さく、
しかしはっきりと伝わってくる。
 T字路のちょうど交わるところ、薄暗い通路の片隅からその声は漏れていた。
 そこには、一つの固まりがあった。
 固まり、つまりそれは、御堂の体を抱きかかえるようにしてしゃがみ込んだ
詠美である。
「ちょっ!? どういうこと、オッサン!? どうなってるのよ、あなた!?
 戦闘は!?」
 自分の置かれた状況がつかめない繭は、叫びながら体を起こす。
 詠美はすすり泣きを続けている。
――思いのほか体の節々が痛い――
 繭はそんなことを考えながら立ち上がった。続いて体の痛みをこらえるように
ゆっくりと詠美の方に歩み寄りながら、記憶の再生を必死に試みた。
――ええと、あのメイドロボもどきが倉庫で襲ってきて、ピンチにはなったけど、
 それは何とか撃退して、それから、それから……――
 戦闘の経過を思い出そうとするが、いまいち繭の記憶は混乱して、思うよう
にはいかない。
 そうこうする内に繭は、詠美の間近にまで歩み寄っていた。
「ちょっと、あなた……」
 改めて状況を確認しようとして、繭は言葉を飲み込む。
 詠美に抱きかかえられた男、御堂は明らかに死んでいる様子だった。
 抱きかかえる詠美の顔までがその血で真っ赤に染まり、凄惨な光景を醸している。
 もっとも、詠美はその血で己の顔が、服が汚れることなどお構いなしの様子だが。
 詠美はただひたすらに御堂を抱きしめ、何事かを呟いている。

「どうなって……」
 もう一度記憶を辿ろうとした繭の頭の中で、ようやくそれが気絶直前にまでつながる。
「あの白衣の男!!」
 はっとして前後を見渡す繭。
 男の姿はない。
 慌てて今度は横方向を確認する。
 果たして、そこには例の白衣の男が倒れていた。
 転がっていた自分のサブマシンガンを拾い直し、それを白衣に向けながら
ゆっくりと近づく。
――まさか死んだフリなわけ、ないわよね――
 慎重に距離を詰め、その仰向けの顔を見て一瞬吐き気に襲われる繭。
 長瀬源五郎の額には詠美と御堂が放った最後の弾丸が直撃し、見るに耐えない
風穴が空いているのだ。
 気を取り直しつつ、繭はもう一度周囲を見回す。
 動く物の気配はない。
「戦闘は終わっているということ……?」
 取りあえずの危機は去っているのだと認識し、繭は再び詠美に近づいた。
 詠美のすすり泣きは終わらない。
 さり気なく御堂の腕をとり、脈を診る。
 予想したとおり、その腕から命の鼓動を感じ取ることはできなかった。
 繭が意識を失っている間に、決着はついてしまったのだ。
 御堂と、あの白衣の男の死をもって。
 繭の胸がいっぱいになる
 意識が悲しみに包まれる。
 涙腺がゆるみ、瞳から透明な液体が流れ落ちる。

――冷静にならなくては。管理者側の増援がいつやって来るとも限らないし、
 オッサンの死を悼んでばかりいるわけにはいかない。遺体にすがりついて
 いるところを、敵に狙われたら……――
 そして、繭の平手が詠美の頬を音高くはたいた。
「しっかりしなさい。ここは敵地なのよ! いつまでも泣いてはいられないわ。
 そうしていて敵の増援に殺されたくなければ、武器を手に取り、荷物を抱え
 なさい。そして周囲に気を配り、敵の接近に備えなさい。向こうに問題さえ
 なければ、千鶴さん達も間もなくここにやってくるはず……」
 はっきりと言い放った繭。
 その頬には未だ涙が絶えず。
 けれど、あまりにも無感情に聞こえる繭の言葉に詠美は耐えられなかった。
 今度は繭の頬が音高くはられた。
「バカじゃないの!? 敵、敵、敵、敵、敵、って!! したぼくが、御堂の
 おじさんが死んじゃったのよ!? 私たちの、そうよあんたのせいなんだからっ。
 何を偉そうに。頭が少しくらい回るからって、威張らないでよ。あんただって、
 結局何もできなかったクセに。私が、私たちが二人の力であの男に勝ったんだから。
 私が泣いてあげないで、誰が泣いて上げるのよ!!」
 詠美の言っていることは滅茶苦茶だ。まるで脈絡がなかった。
 それでも繭には詠美の気持ちは痛いほど分かっていた。
――けれども、感傷で生きていけるほどこの島は甘くない。それは事実。だから……――
 ハッキリと繭は叫んだ。
「だから、あなたはその感傷のためにしんでもいいというわけ!?」
 さらに続けて叫んだ。
「それでオッサンがよろこぶというのなら、いつまでもそうしていればいいんだわ!!」

 詠美もそれに応えるように叫ぶ。
「そういうことを言ってるんじゃないわよ! 私は、ただ、したぼくが……!!」
 お互いの視線がジリジリと絡み合ったまま、緊迫した空気が辺りを包む。
――うみゅー……まずいわ。こんなにおおきなこえでさけびつづけていては。
 こえをきくのがみかたならばいいのだけれど……。って、うみゅー? みゅー?
 まずいわ。まだ……あんぜんじゃないのに……。おっさんにもおわかれを
 いってないのに……。うみゅみゅー。みゅ! みゅみゅみゅっ!? ――
「みゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 ついにその時がやってきてしまった。
1度目の摂取で繭の体内抗体が作られたせいか、キノコ自体の個体差なのか、
 はたまた爆弾を吐いた際にキノコの一部も吐き出されたものだろうか?
 性格反転キノコの効力は、早くも繭の体内から消え去ってしまっていた。
「ちょっと、なによ、みゅーって!! 叫んでごまかしても駄目なんだからね!?」
 突然の様子に面食らいながらも、詰め寄る詠美。
 しかし、ホンの僅かもすれば繭の様子がおかしいのは明らかだった。
「みゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「なに、どうなってんのよ。ちょっと、あんた!?」
 戸惑う詠美。
 そして詠美は繭に気を取られたまま、背後から聞こえてきたはずの駆け足の物音に
気付くことができなかった……。


【椎名繭:サブマシンガン 祐一のエアーウォーターガン(硫酸入り) CD3/4
     秋子の機械(電源OFF、実はレーダー) 水と食料】
【大庭詠美:サブマシンガン ポチ(Cz75) CD4/4 水と食料】
【御堂遺体:デザートイーグル×2 予備マガジン】
【長瀬源五郎遺体:体内爆弾爆破光線銃 スミスアンドウエスン 最後の無記入CD 所持】
【御堂達が倉庫で入手した千鶴 梓 あゆ の分の武器:付近に転がっている?】
【ガトリングガン:移動、持ち運び不可】

【残り22人】

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