反転開始
「その内気な女王様はね、確かに内気な部分は治ったんだけど、思慮深い部分まで反転してしまったの」
そうスフィーが言い終わるか言い終わらないかのうちに、
「そんなの私には関係ないわ」
今までの芹香からは想像もできない、はっきりした声が発せられた。
「?」
「何ジロジロ見てるのよ」
「芹香さん、もしかして食べちゃった?」
「ええ」
「えっ!?」
あまりに咄嗟の出来事にスフィーが驚いたのは言うまでもない。
だが芹香はそれにはお構いなしに、
「さっ、往人探しに出発するわよ」
「ちょっ、ちょっと待って!」
「あ〜もう、何モタモタしてるのよ!」
「あ、あの、放送が…」
ゴタゴタに気を取られて、危うく放送を聞き逃すところだった。
参加者名簿を片手に、スフィーは読み上げられる名前の場所に線を引きながら、
「この声、どこかで聞いたような…」
「知らないわ」
「う〜ん…」
やがて、『それでは健闘を祈る』と放送が締めくくられた。
「スフィー、終わった?」
「うん」
「はい、それじゃあ出発するわよ」
「ちょっと待って」
「今度は何よ?」
「雨が…」
放送の頃から、屋根を雨が打つ音が聞こえだしていたのだ。
遠くから雷鳴も聞こえる。
「雨なんか関係ないわ」
「でも、雨具とかないでしょ?」
「それはそうだけど」
「ここで雨に打たれて体を悪くしたら…」
「心配性ね」
その時、「ドーン!」と激しい音が鳴り響いた。
「きゃっ!」
スフィーは思わずしゃがみ込む。
「あなたの言うことも一理あるわね」
芹香は物怖じしない。
「雷に打たれちゃここまでの意味がないわ。仕方ないから付き合ってあげる」
【スフィー・芹香、小屋に滞留。所持品は変わらず】