雨の記憶
降りしきる雨の中、男は戦友の死を知った。
(御堂…俺と決着をつけるのではなかったのか?…何故だ?何故俺を残して…何故…)
蝉丸は少女を濡れないように気を配りながら背負ったまま住宅街を疾走しながら思考を巡らせていた。
光岡、岩切、きよみ、そして…御堂…彼が時間を共有した者は皆、死んでしまった。
ザァァァァァァァァァァァァッ……
(あぁ、そういえば、あの時もこんな雨の日だったな…)
―――――――――その時はその時考えりゃいいだろ!!
蝉丸は突然の雨に戸惑っていた。
降りしきる強烈な水の矢が運動場に突き刺さる。
「よぉ、坂神。テメェも居残りか?」
声の主は御堂であった。顔合わせは済んでいる。初日から喧嘩をやらかした仲である。
「健康審査だ。実験体としてふさわしいかの最終審査だった」
「奇遇だな、俺もだ。けっけっけ、楽しみだぜ。この審査に合格すりゃあ、
いよいよ俺も強化兵の仲間入りだぜ。…坂神、テメェは嬉しくねぇのか?」
御堂は蝉丸の顔色を覗きこんだ。
「…実を言うと、不安で仕方ない。自分がどう変わってしまうか、自分が自分では無くなるのではないか、不安なのだ」
強化兵についての噂は、はっきり言って良いものは少ない。
発狂し、己の体を食いちぎり、絶命…手足が膨張、消し飛び、処分…暴走、3人もの研究員を殴り殺し、射殺…
もし、自分がそうなってしまったらと考えてしまうと、蝉丸は不安でいっぱいだった。
「ハァ?何言ってんだ?そんなことグダグダ考えてたら前に進めねぇだろうが!
もしそうなっちまったら、なった時に考えりゃあいいだろうが!!いいか、俺が手本を見せてやる、よく見てろ!!」
そう言うと御堂は豪雨の中に飛び込んだ。当然、彼の体は雨に打たれ、ずぶ濡れになる。
「ハハハハッ!坂神!!濡れちまうのも案外気分がいいもんだぜ!!」
「御堂、風邪をひいたらどうするんだ?」
「その時はその時考えりゃいいだろ!!」
「……そうだな」
気がつくと蝉丸もまた御堂と共に雨に打たれながら運動場を走り回っていた。
ザァァァァァァァァァァァァッ……
「(・∀・)…蝉丸?泣いてる…の?」
「雨だ。泣いてなどいない」
「(・∀・)そっか、良かったぁ〜。蝉丸、急に悲しそうな顔するんだもん。心配しちゃったよ」
「そうか、気を遣わせてすまない」
「(・∀・)うん、いいよ。ねぇ蝉丸、アレ、何だと思う?」
月代は赤いシャッターが目に痛い一件の家を指差して言った。仮面の視界からはよく見えないのであろう。
蝉丸の目からはシャッターに書かれた文字まではっきりと読み取れた。
「文字が所々消えているが……『…島消…団』どうやら消防団の詰め所らしいな。
……ふむ、消防団か…拡声機くらいならあるかもしれんな。月代、行ってみるか?」
「(・∀・)え?…でも、あそこに何も無かったらどうするの?それに鍵がかかって入れないかもしれないよ?」
「その時はその時考えればいいだろ?」
「(・∀・)…何かそのセリフ、蝉丸らしくないね」
「あぁ、そうだな。…やはり奴本人の口から、もう一度聞きたかったな」
雨は降り続く。島内にも、男の心の中にも。
【蝉丸&月代 現在位置 住宅街 消防団の詰め所周辺】
【月代のお面 現在は安定し、(・∀・)に】