来訪者の多い場所
叩きつけるように降り注ぐ、雨。
「随分と唐突に振り出したものねぇ」
呟き、窓の外のグレーの空を見上げる。
この降り方だと、未だ暫くはここに滞在しなければならないようだ。
兎角、時間がない。
こうしている間にも、国崎往人が生命の危機に晒されている可能性もあるのだ。
残りは25人を切った。いままで協力態勢をとっていた者たちでも、
ここまで人数が減れば、もしかしたら全員殺す気になるかもしれない。
――放送の直前か、直後に聞こえた耳を劈くような轟音だってそう。
それは誰かが、まだやる気なのを暗示するものなのかもしれない。
そう考えると、この小屋にも長時間滞在するわけにはいかない。
参加者のひとり、北川潤に場所を知られているからだ。
彼が裏切る気になるとは、そう想像できる事ではないが、可能性は全くのゼロではないし、
本人にその気がなかったとしても、もし他人にこの場所の事を話したりしたときに、
その相手がやる気になっていたとしたら……
「……早くやんでくれないかなぁ、この雨」
溜め息混じりに、スフィーが呟く。
そう。雨が降り止まないと、この場所からは動けない。
降り注ぐ雨は視界を奪い、
響き渡る雨音は聴覚を奪うからだ。
迂闊に動き回れば、それだけ狙われやすくもなる。
いまはただ、時間が過ぎるのを待つしか無い。
ふと、窓の外にもう一度目をやる。
窓に叩きつける雨、その水滴によってぼやけた風景の中。
並べられた、3つの十字架。
……木の枝を折って、ロープで結び付けただけの乱雑な十字架。
それを見て……思う。
……彼らは、満足だったろうか?
精一杯生きて、満足な死を迎えられたと言えるだろうか?
それは、否、だろう。
突然こんな所に連れて来られて、殺し合いさせられて……満足なわけが無い。
だけど……それなのに。
どうしてあの3人は、あんなに安らかな顔で……眠りについたのか。
ホントは、死にたくなんて無かった筈なのに。
それでも、あの3人は、笑って、逝った。
『死にたくない』と言う自分の気持ち、恐怖、全部押し殺して、それでも笑った。
「安心して。あなたたちの気持ち、願い、心……全部、わたしたちが全部……受け継ぐから」
それは、嘘。
ひとの想いをまるまる抱えきれるほど、強い人間なんていない。
だけど、出来る範囲でなら。
自分が頑張って、頑張って、もう限界って言うところまでは、やってみせるから。
……だから、このぐらいの嘘は、許して欲しい。
「芹香……」
気がつくとスフィーが、わたしを見上げていた。
改めてひとの死を認識した事で、心細さとか、そう言った感情が再び沸きあがってきたのだろう。
不安げに、服の端を掴んでいる。
そんな彼女の頭を優しく撫で、わたしは言った。
「まだまだ……これからなんだから。頑張りましょう、3人のぶんも……ね」
そう。一足先にここを発っていった北川潤の、ように。
わたしたちも……強くあろう。
スフィーもそれに、笑顔で、答えた。
「うん!」と、元気いっぱいに。
と。
突然。
ずしん、と言う、微かな重低音と、僅かな揺れ。
「……地震?」
スフィーが、再び顔を曇らせる。
地震。いや、それにしては……揺れが短すぎる。
これは何かが倒れたとか、落ちたとか、そう言う系統の振動だ。
それも……重いものが。
冷や汗がひとすじ、頬を伝う。
参加者同士の戦闘?
それとも何かのアクシデント?
理由は分からない。だが、自然に起こったものとは……そうそう思えない。
そして、それは、この耳で聞こえる位置……そう遠くない位置。
つまり、居るのだ。参加者が、そう遠くない場所に。
……どうする?
ここに留まるのは、危険なのではないか?リスクを負っても、移動すべきではないか?
(全く、この辺りは本当に……来訪者の多い場所ね)
芹香は、皮肉っぽく笑った。
【残り 22人】