日常と狂気の交わる場所
目覚めは最悪だった。雨に打たれ泥に塗れ見るも無残な姿になっていた。
眠る前と変わらず周りには人の気配は無かった。
しかし風景は少し変わっていた。動転しながら走ったせいだろう。
このまま雨に打たれるのは危険だった、体温も下がりきっている。
重い体を何とか持ち上げ這うように進んだ、視界に映る建物を目指して。
建物は喫茶店だった。誰の持ち物か分からないが毛布も着替えもあった。
震える指先で服を着替え、毛布に包まりながら置いてあったコーヒーを沸かしなおした。
体を温めながら全てを思い返す。全てを――。
何度考え直しても否定できなかった。観鈴は確かに死んだ。
そしてその事を受け入れた時、心を繋ぐ鎖が完全に壊れた時、彼女は――。
かつてこの喫茶店は希望の里であった。
この絶望に包まれた島の中、何とか生きて帰ろうと寄り添ってすごしていた。
しかし何時から歯車が狂いだしたのだろう。
ある者は愛する人に否定され。
ある者は愛する人をその手で殺め。
ある者は愛する人を自分の性で失ったと思い込み。
ココは島で最も日常に包まれた場所。
しかしココを利用した人のほとんどは日常と決別を果していった。
そして新たに――。
「居候……やっぱりアンタの考えは甘すぎたんや。ゲームに乗ってない奴なんてほとんど居ない。」
抑揚の無い声で呟く。その声は染み込むように自分の心に満ちていった。
「観鈴……寂しい思いさせるな。でも待っててな、すぐ友達連れて迎えに行ってやるから。」
愛する者を失った悲しむが己を包む鎧となってまた新たに日常と決別する者が生まれた。
確かにこんな島でも幸せを噛み締めて逝けた人も居た。それは事実だ。
しかし、負の感情を纏い奈落に落ちて逝った人も居る。それも事実だ。
喫茶店――そこは島で最も日常にあふれた場所。
喫茶店――そこは日常があふれるが故に狂気を呼び集める場所。
「ほな……行ってくるわ。」
誰も居ない店内に別れを言うと晴子は進みだした。
その瞳はこの島で最も冷静で最も歪んでいた。
【晴子 ニードルガン、特殊警棒回収】