死者からの贈り物
『ウィーン』
自動ドアの開く音がし、柏木梓は身構えた。
その音がしたほうを確かめるとその構えを解いた。
だが、何も言えなかった…
二人の顔を見ればあのおっちゃんがどうなったかは聞かなくてもわかることだった。
二人とも涙を流した痕があった。
しかし、そのことを乗り越えた意思のある目をしていた。
そして月宮あゆは言った。
「おじさんの分までがんばろうね!」
「おう!」
「で、あなたたちはなにやってるの?」
「ん〜、今詠美がコンピューターに向かって四苦八苦中」
「どうしてそんなことしてるの?」
「詠美と繭がなんか変なCDを持ってたの。それにあの白衣着たおじさんもCDを持ってたの。
だから、ここのコンピューターで中身を確かめたいんだって」
柏木千鶴は一息ついた。ここにきてこれまでの疲れが出たのだろう。
「じゃあ、そのCDの解析が終わるまで休んでていいかしら?」
「いいんじゃない。そんなにすぐに終わるとは思わないし、
解析が終わったらどうせまた動き出すだろうからね。
それにしても千鶴姉、もうばてるなんて歳なんじゃない」
そう言って手を口に当てぷぷぷと笑う。
「え、千鶴さんっていったいいくつなの?」
あゆが無邪気にそう尋ねると同時にあたりになんともいえない殺気が満ちた。
奥のほうから動物の騒ぐ声が聞こえた。
「企業秘密よ」
と、にっこり微笑みながらそう答える千鶴であったが目は笑っていなかった。
「じゃあ、あたしは詠美のとこに行くから、あゆも休んでおくんだよ」
と言って、奥のほうに立ち去ろうとした。
「あ、そうだ。お腹空いたから何か食べ物探してみるよ」
「お、気がきくね。それじゃ、よろしくな」
そして、詠美のところまで戻ってきた。
「どう、進んでる?」
「ふみゅーん。ちょっとわかんないかもー
で、千鶴さん達戻ってきたの?」
と、詠美は梓のほうを向かずに聞く。
「う、うん。で、詠美に言わなくちゃならないことがあるんだけど…」
「…したぼくの事でしょ。わかってるわよ。
あの状態から生き返るほうが不気味なんだから…」
それ以上梓は何も言うことができなかった。
「だから、あいつの分まで絶対生き残ってやるんだから!」
それを聞いて梓は詠美を抱きしめた。
「うん」
ついでになぜか繭も遊んでると勘違いしたのか、抱きついてきた。
「みゅ〜♪」
「ご飯ご飯〜鯛焼き鯛焼き〜」
あゆは先ほど宣言したとおり食べ物を探していた。
そして、それはあっけないほど簡単に見つかった。
隣りの部屋が簡単なキッチンになっていて食事が取れる場所になっていた。
「あ、冷蔵庫がある。食べ物が入ってる!これで何か作っちゃおう!」
そう言って、食材を冷蔵庫から取り出す。
「秋子さん直伝の腕を披露しようかな」
しかし、肝心の調理器具は見当たらなかった。
それもそのはず、ここのキッチンはHMX以外は使っておらず、
調理器具は彼女らの体に内蔵されていたからである。
「うぐぅ、どうしよう…」
そこで彼女は思い出した。
「あ、そうだ!ぼくナイフ拾ったんだった」
そして、彼女は自分のかばんからナイフを取り出した。
しかし、そのナイフには毒が塗られているということを彼女が知る由もなかった。
【残り22人】