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真実の明暗


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気の早い鳥たちが、森へと帰っていく。
たった今、抜けたばかりの森は、これから鳥たちのねぐらとして静かに繁盛するのだろう。
草原を横切り、更に森を通り抜けた間、何者にも遭遇しなかった。
ただ鳥だけが、彼の視界の中に生きるものだった。
(まいったな…)
まばらな編隊を、とぼけた顔で見上げながら少年は思う。
そして、ぽりぽりと頭を掻いた。

正直言って、戦力は低下している。先ほどの魔法が、姫君に影響しているせいかもしれない。
魔法の影響はやがて消えるだろうが、消えたら消えたで身体にかかる負荷が強まるだろう。
どちらにしても、ドッグに突入した時のような無茶はできない。
(もう少し、からめ手から攻めるべきだったかな?)
少しだけ、反省してみる。情報は、真に必要な物だけでなくても構わなかったのだから。
きっと長瀬に連なる者ならば、現在どの程度の勢力が存在しているかも知っていただろう。
むしろ彰に直接係わり合いのない情報ならば、安売りしてくれたかもしれないな、と過去を振り返る。


 沈黙の続く一室で、時計の針がかちり、と音を立てて三時を示した。
 発声することを忘れたかのように、沈黙を保持しつづけた男が口を開く。
 「…知ったことか」
 長い長い迷いの時を経て、フランクがようやく出した結論は、全てを運命に任せるかのような一言だった。
 いや、彰という青年の可能性にかけたのかもしれないし、他の参加者に少年が打倒されることを期待して
 いたのかもしれない。
 真意の程は、本人だけが知っている。

 少年は大きく溜息をついた。
 珍しく、苛立たしさを感じていたかもしれない。
 「…強情な人ですね。その上、僕に残りの全員を殺して回れとは、残酷でもある」
 「……」
 「ああ、そうですね。あなたはもう、用なしです…いえ、殺しはしませんよ。
 僕が殺すよりも、他の参加者が憎しみも顕わに、あなたへ襲いかかるほうが、姫君は喜ぶでしょうから」
 少年は表情1つ変えずに、いや、いつもの微笑すら浮かべて死の宣告を行う。
 「どうせあなたの顔は、長瀬の一族だとしか見えませんから…さぞや敵意を、買うでしょうね」

 「…!……!」
 再度興奮し始めたフランクを、つまらなそうに見ながら、少年は答える。
 「はは、今に見ていろ、とは武器も持たずに威勢が良いですね。
 どうやら、いまだに管理者気分が抜けないと見えます」
 「……」
 「ああ、連絡が途絶えているでしょうから、御存知かもしれませんが。
 潜水艦のドッグは僕が襲撃済みですので、あしからず」
 満面の笑みを浮かべながら、そう言ってやいなや、驚くフランクの後頭部に打撃を加えて気絶させた。


…結局、姫君へ捧げるものが一つ増えただけのことだ。
再び執念を燃やして、襲い来るのならば姫君にとって格別のご馳走となる。
彼に言った通り、参加者に殺されるのならば、なお良い。

それはそれで良いのだが。
確かに存在する危険を防ぐという意味では、まるで役に立たない。
彼も今ごろ、目を覚ましてどこかへ移動しただろう。
これからのことを、考えなければならない。


 『おーーーーーーーーい』

思考の淵に沈みこんでいた少年に、伸びのある甲高い声が投げかけられる。
周囲を窺うが、見渡す限り人影はない。
改めて自分の能力に衰えを感じながら、もう一度探してみる。

 『ここだよ!ここーーー!』

かなり遠くだが、高さ十数メートルの鉄塔が立っている。
頂上で手を振っているのは、不思議な仮面の呪いをうけた少女だった。
隣には、常に自然体のままでありながら隙を見せない、手練の軍人が立っている。
(…はずれ、だね)
この2人が魔法使いとは思えない。

だが、この島にあって無敵とさえ思えるあの男を、ここで屠ることができれば僥倖だ。
おそらく、あの男を倒そうとする者など、そして倒せる者など、他には存在しないだろうから。
なればこそ、自らが手を下す必要性が生じるというものだ。

悪意を深く心に秘めて、微笑を浮かべながら少年は手を振った。


「久しぶりだね」
櫓の頂上に登るなり、少年は笑いかける。
「ああ、無事で何よりだ」
「(・∀・)ずいぶんボロボロだけど、だいじょうぶなの?」
蝉丸と握手をし、月代の頭をなでる。

当然のように、話題は蝉丸から聞いた地下の騒音の事となった。
少年は潜水艦があったことを告げ、続けて修理中であったことを告げる。
脱出方法のひとつが浮かび、そして消えたことを蝉丸たちは残念がっていた。

彼らは少年の期待通りに、数人の参加者情報を教えてくれた。
さすがにリーダーシップを発揮し始めたらしく、残り人数から考えると多くのコネクションを築き上げている。
視線を外して、景色を眺めるふりをしながら、少年は情報を吟味した。
(ずいぶん多くを仲間にしたもんだ…でも、魔法使いはいないようだね)
おそらく蝉丸を中心とした一団は、生き残り参加者の最大グループなのだろうと思われる。
それならそれで、全員が集中する前に、戦力を削げれば言うことはない。

「ところで、ここで何をしているんだい?」
蝉丸との会話中、暇そうにしていた月代へ声をかける。
「(・∀・)え?あ、放送、するんだよ」
「放送?」
誘いをかけるために、わざと少年は大袈裟に首を傾げる。
「今はもう、爆弾の起爆装置が無効になっているらしいから、呼びかけも可能だと思ったのだ」
蝉丸が助け舟を出す。
脱出に向け、更に仲間を増やすための放送の内容を考えていたところだった、というわけらしい。

「街角の一室に、仲間のほとんどは居るはずなのだが…」
腕を組み、蝉丸は考え込んでいた。
あそこは安全性の高い反面、解りにくい。なんといっても蝉丸たちは、島の中をあまり移動していないのだ。
常に共に居た月代と相談したところで、あまり良い場所は浮かんでかなかったため、長い間悩んでいたのだ。

「…学校なんて、どうかな?」
「学校?」
「全ての階とは言わないけれど、電気の付けっぱなしになっている教室もたくさんあるし、何より大きいから
 比較的わかりやすいと思うんだ。
 いくつか戦闘のあとがあるけれど…それはどこでも、同じだしね」
蝉丸が慎重に考えながらも、何度か頷く。
「反面、危険性が伴うが…それを考えていては始まらない。
 学校の位置は、説明できるのか?」
「ええ、もちろん」
「では決まりだな」
そう言って櫓を降りようとする蝉丸を、ちょっと待って、と少年は引き止める。
(…ここからが、肝心だね)
心の中で誘導する方向を確かめながら、慎重に、しかしいつもの気楽さを失わないように、少年は発言する。

「せっかくだから、放送内容に加えてほしい事があるんだ」
「む?」
「先ほど空が光って、天気が急変したでしょう?」
「(・∀・)うん、すごかったね」
あの雨の中を移動し、今この空を見れば、誰しも不思議に感じていたこと。
蝉丸たちも例外ではなく、少年の発言に期待する眼差しを送る。

「馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれないけれど、あれは魔法なんです」
少々気が引けているような、自信に欠けた態度で言い出してみる。だが真実なのだから、しょうがない。
「魔法、だと」
「(・∀・)馬鹿馬鹿しいなんて…そんなこと、思わないよ」
月代は自分のお面を指差して、魔法を肯定する。
蝉丸もそれを見て、なんとか自分を納得させた。

「あの魔法には、僕も少々関わりがありましてね。
 あれは多分、結界をつかさどる者への攻撃だったんです」
これは、真実。
「でも、僕は魔法そのものの内容について、詳しくは知らない。
 だから、もし加わる仲間に魔法使いがいれば、自ら名乗り出て、説明して欲しい。
 …そう付け加えてもらえないかな?」
これも、真実。
「結界への攻撃か。
 確かに希望の道は、何本あっても困らないからな」
蝉丸が答える。
実際問題として、地下の潜水艦が望み薄となった今、新たな希望は何でも歓迎したいところだ。

そして少年の言葉に嘘はなく、すべて真実なのだから、疑う事もなく受け入れられた。
「では放送を流すとしよう」
蝉丸が櫓を降りる。
「(・∀・)はやく降りたほうがいいよ!ここにいると、音がすごいから」
続けて降りる月代が、少年に声をかける。

「ああ、今行くよ」
少年は、声を涼やかな風に乗せ、軽やかに答える。

 まずは、狙いどおり。
 そして、放送が終われば。

 …この二人に、用はない。


変わらぬ笑みの下に、殺意を秘めて。
少年は、再び大地に降り立った。

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