芹香の誤算
ザッ!ザッ!ザッ!
雨が上がった後の草原を国崎往人、来栖川芹香の二人は神尾観鈴を探して歩いていた。
が、往人の歩くペースでは芹香には辛いのか、すぐに音をあげ始める。
「ちょっ・・ちょっと待ってよ・・・」
「なんだ、もう疲れたのか?偉そうな口調の割にはバテるのが早いな」
「しかたないでしょ!性格は変わったっていっても体力とかは変わってないみたいなんだから!普段は箸より重い物も持ったことないのよ!」
(・・その割にはいろいろ持っているな、あのバッグに)
小屋で北川、スフィーと別れるときに二人が持っていた合計3丁の銃と電動釘打ち機を4人でに分けることになった。
「一人が何丁も持つより、一人が一丁づつ持ったほうがいいんじゃない?」
と言い出した芹香の提案によってだ。
一番体格がいい往人がアサルトライフルを、
北川はデザートイーグルを、
スフィーはM19マグナムを、
そして芹香が残った電動釘打ち機を持つことになった。
何故か北川は、次々と無くなる自分の武器に涙を流していていたが。
「何度も言うが俺は連れの二人を探しているんだ。とろとろ歩いている暇なんかない」
「だからって・・もちょっとゆっくり歩いてくれたっていいじゃない」
「本当は走って行きたいんだ。このペースで歩いているだけ感謝しろ」
「・・まあいいわ、それより聞きたいことがあるの」
と、言いながらバッグから参加者名簿を取り出す。
「これはさっきも見せた参加者の一覧表なんだけど・・」
「ああ、観鈴と晴子の番号を確認するためにさっき見たやつだな」
「そう、それで重要なのはここからなんだけど・・」
そう言って芹香はペラペラとページをめくって往人の項目を本人に見せる。
「ここの部分、アンタの能力の『法術』ってやつが『現状まま』って書かれているのよ。
だからスフィーと・・もういないんだけど結花って娘の三人でアンタを探していたの、結界の制限を受けないアンタが何かしらの事を知っているんじゃないかって」
「・・・・・多分何もわからないとおもうぞ、それに俺の力を見れば制限とやらがないのも納得できるだろう。見てみるか?」
「ええ、興味もあるし、どの程度のことが出来るのかも見たいからね」
「分かった」
そういって往人は、ポケットから人形を取り出す。
「随分古びた人形ね・・」
「ああ、お袋の持ってたやつだからな」
(・・ってことは相当の伝統ある人形なのね、子にわざわざ託すものなんだから。これは期待できそうね)
「・・見てろ」
そう言いながら往人は人形に力を込め、やがてその人形がゆっくりと動き出す。
「凄い、これが法術・・」
「ああ、種も仕掛けもないぞ」
「分かっているわよ・・で、その人形で何が出来るの?」
「は?」
「は?って法術って人形を媒体にして力を引き出すんじゃないの?今見た感じではそう思ったんだけど・・それとももっと別な方法なの?」
「いや、俺に出来るのはこれだけなんだが・・」
「・・・・・」
沈黙のあと、恐る恐る芹香が喋りだす。
「い、今なんて・・」
「俺の法術は、この人形を動かすことだけだって言ったんだ」
「じゃあ結界の封印をとく事とかは・・」
「出来ない」
「法術を戦闘に使うことは・・」
「人形を動かしても相手は倒せないと思うが」
「傷や病気を治したりは・・」
「それが出来れば今ごろ俺は医者にでもなっている」
堂々と語る往人。
(つ、使えない・・。なんて無能さなの・・。これじゃあなにも知らないのも無理ないわね・・)
完全な誤算だった。唯一の結界に関しての手がかりで、優秀な法術師だとばかり思っていた往人が箸にも棒にも引っかからないようなヘボ法術師だったとは。
(ぐ、愚痴っても仕方ないわね。取り敢えず戦闘に関しては手馴れているようだし、早いとこ神尾さんって子を見つけて、スフィー達と合流して今後の対策を練らないと・・)
「もう休憩はいいな、遅れた分は走るぞ」
返事も待たずに、往人は走り出す。
「ま、待ってよもう!」
送れて芹香も駆け出した。
往人は気付いていない、人形がうっすらと青白い光を放ち、雪見や智子に人形を動かした時とは違い、いつもの人形の動きになっていたことに。
そう、まだ彼は気付いていない。
結界を消すだけの力が自分の人形に集まりつつあることに。
【往人 アサルトライフル 芹香 電動釘打ち機 それぞれ装備】
【消毒液 包帯 往人の肩の傷の治療に】
【人形 現時点ではまだ何も出来ず】