飛空挺の墜ちた地で
喀血!!
赤黒い液体が大量に舞い散る。
高度約2000Mの暗室。
薄闇の中で僅かに揺れていた蝋燭も、火を覆うように吐かれた大量の血液に
よって、全て消え去った。
「まだ、まだ足りぬかよ、神奈……」
源之助は全身の力を失い、大きく音を立てながら前のめりに倒れ込んだ。
外からは派手な爆音が漏れ聞こえいた。
「もはや、これまでなのか……」
力無く呟く源之助。
しかし、彼の瞳は未だ光を失ってはいなかった。
──僅かな時を経て、巡視艇艦橋。
「上空で爆発音!! 空が、空が晴れてゆきます!!」
「上空の飛空挺より入電。正体不明の爆発により、緊急事態発生! キャプテン!
飛空挺側はこちらに指示を求めています!!」
オペレーター達が驚きと共に報告を読み上げる。
「状況の詳細を至急報告させろ! 向こうへの指示は長瀬老が下されるはずだ!
向こうのオペレータは何をやっているのか!?」
大塚は指示を下し、続報を待つ。
「駄目です、キャプテン!!」
「どうした!?」
「飛空挺より入電! 『我操舵不能、我操舵不能。これよりパラシュートによる
脱出を試みる』です!!」
オペレータの一人が絶望的な表情で大塚を見上げる
「保たせろ!」
──一体、何が起こっているというのだ!!──
訳の分からぬことの多かった今回のプログラム。
しかし、此処までの異常事態は大塚も予想し得なかった。
「長瀬老はどうした!? 何故つながらない!?」
「それが、向こうも混乱している様子で……。うわっ!!」
叫んだオペレータを詰問しようとした大塚だったが、相手の視線が上空に向けられ
たまま釘付けになっているのを見て、その先を追った。
そして……。
「……なぁんてこった!!」
呻く大塚。
炎に包まれた巨大な飛空挺が、ゆっくりと島に向かって落下しつつあるのが見えた。
「一体、何が起こっているのだ……」
遙か上空で人智を越えた作戦が実行されていたことを、大塚は知らない。
──再び同時刻、上空。
「長瀬老はどうした!?」
「それが、お部屋にこもったまま、ご返事も返されぬ様子で!!」
「ならば捨て置け!! もともと俺は、この話には乗りたくなかったんだ!!」
「しかし!!」
「ええい、そんなことよりも自分の命を心配したらどうだ!!」
追いつめられた者達の怒号が響きわたる艇内。
刹那、またどこかで大きな爆音が響く。
「駄目です! どの脱出口も火が回っていて、パラシュートが!!」
「馬鹿な!! どこか無事なところがあるはずだ!! 俺はこんなところで死なん!
死んでたまるか!!」
戸外の喧噪をよそに、源之助は己に課された最後の仕事を片付けるべく動いていた。
「今まで多大な犠牲を払って行ってきた『これ』を、このまま無為に終わらせるわけ
にはゆかぬ……」
伏したまま、源之助は呟く。
「後事を、誰かに託さねばならぬ……。幸い、今ならば神奈の力が弱まっておる……」
閉め切ったドアの向こうから、脱出を促す声が聞こえる。
しかし、源之助はそれに答えず、自らの血を用いて床に何かを記している。
「今さら脱出もあるまい……。仮に脱出が叶ったとて……ぐふっ!」
さらなる吐血。
源之助の顔色は、いよいよ真っ青になりつつあった。
──もはやこの体、保つまい。……スフィーか。或いは、まだ生き延びている能力者
の誰かか……。いや、特殊な能力などなくても……。強い、ひたむきな思いさえあれば。
神奈には、対抗し得るはずじゃ……──
「しかし、『あの情報』を開けるのは、おそらくスフィー以外にはおるまい……」
──スフィー……。聞こえるか……。スフィー……──
残された僅かの力を振り絞り、源之助は最後の仕事に取りかかる。
──源之助、最後の想い……。届くや!? 届かざるや!?
【飛空挺の緩慢な落下、開始。落下予測位置不明。落下予定時刻不明】
【源之助:神奈の呪詛返しで致命傷。その中で何かを成し遂げようとしている】
【飛空挺の情報は地下施設でもゲットできる?(ゲットするかどうかは別問題かも)】
【巡視艇:プログラムの進行を最後まで見守り、優勝者を迎える役目の船。”その時”
まで島には決して近寄らず。優勝者を癒す設備あり。非武装】