間が悪い耕一
「……えちゃ〜〜ん」
彰と葉子の耳が同時に声を拾った。
静寂な森の中にこだまする、少女の声。
「……にいちゃ〜〜ん! 葉子おねえちゃ〜〜ん!」
「彰おにいちゃ〜〜ん! 葉子おねえちゃ〜〜ん!」
耕一の後ろから初音が叫ぶ。
考えてみれば、葉子が知っているであろう人物は初音だけなのだ。そして声を知っているのも。
敵がどこに潜んでいるかも分からないこの島で、声をあげて探すのはかなりのリスクを伴う。
しかしまぁ、これしか方法がないのだからしょうがない。
メイド姿の女装マッチョ。しかも面識無しの前にあらわれるほど、阿呆な女の子ではないだろうから。
うさぎちゃんではなく、狼さんが現れたときのために耕一は辺りを警戒する。
手にはベレッタ。残してきた武器は丁寧に隠したから、万が一小屋に侵入者がいても大丈夫だろう。
(PCとかも隠しとくべきだったかな?)
まぁ葉子(とうまくいったら彰も)を見つけたらすぐに戻るつもりだ。そんなに時間もかから……。
「ぜんっぜん見つからないわね…」
マナの冷静な一言。
「あはは……」
「笑っても駄目」
「うう……」
「泣いても駄目!」
「むきーーー!!」
「怒っても駄目!!」
マナちゃんは冷たい。
雨で消えかけていた、足跡『っぽい』ものを追跡。
考えてみればちょっと不確実?
あ、あと恋する乙女の勘!
「だいたいなんであの時、あんな提案しちゃったのかしら…。私……。
考えてみれば全員であの小屋空けるのは致命的な気が……」
「マナちゃん……。ほらほら! もっと元気だそうよ。
大丈夫。きっともうすぐ見つかるよ!
耕一お兄ちゃんも元気出して〜」
初音が二人を元気づける。ずーっと声を出しっぱなしでつらいだろうに。
「うう……。初音ちゃん。いい子だ〜。がんばり屋さんめ〜」
初音を抱きしめ、ほお擦り。
「あはは、耕一お兄ちゃんおひげが痛いよ〜」
再会はそこで訪れた。
(やったーばんざーい、あきらくんとようこさんだ〜)
耕一くんの頭の中はひらがなです。
「……。余計な心配をおかけしました…」
とは葉子さん。
(……。余計だと思っていた心配は見事に的中しました…)
とは彰くん。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
「あ……彰お兄ちゃん。葉子お姉ちゃん。お…おかえりなさい!」
初音ちゃんは耕一くんの腕の中から声をあげます。
ただ、彰くんの目が怖いです。
初音ちゃんは硬直する耕一くんの腕をすり抜け、彰くんに飛びつきました。
それでも、彰くんの目は怖いです。
「とりあえず、小屋に戻ってから話さない?
あんたたちもその様子だと、帰るつもりだったんでしょ?」
マナちゃんの提案。
「そうですね…。軽率な行動であなた達まで危険にさらしてしまったみたいです…。
すいません…」
耕一くんを先頭に、一同は小屋に戻ります。
でも、初音ちゃんの手を握りながらも、彰くんの耕一くんを見る目は…。
まじ怖いです。
【一同。小屋へと戻ります】