まだ見ぬ敵
彰は外を見ていた。
窓から外を見ていた。
しかしそれは見張りとは名ばかり。
初音のことをボーっと考えていた。
(初音ちゃん…。愛してるよ……)
この思いは大きくなっていく一方。
独占したい。誰にも触らせたくない。自分のことだけ見ていて欲しい。
彼もまた、普通の男だった。
「…!! 耕一さん!」
彰の目に飛び込んできた『映像』。
武器をもった誰かが、森の中にいるのが見えた。
「どうした!? 彰君!」
「誰かが森の奥に! 武器も持っていたように見えました!」
一同に緊張が走った。
彰が武器の隠し場所に走る。
「北川君といったね。俺と彰君で様子を見てくる。
もしかしたら怯えている人かもしれないからね」
「もしものためにこっちにも男手を…。
信用してくれているのかい?」
北川は言った。もちろん裏切る気など毛頭無かった。
「裏切る気が大きいようには見えない。
そして裏切る気が少しある程度なら、女の子を手にかけたりはしないだろ」
耕一が微笑んだ。
北川もそれに答える。
「まかせときな! リーダー!」
女の子達は…。
「あなたに守られなくても自分で身ぐらい守れるわ」
「魔法使いをなめないでよ。逆に守ってあげるわよ」
「私も…。戦えますから…」
「耕一お兄ちゃん…。気をつけてね…」
北川はこけた。
「あそこの辺りです…」
彰が森の奥を指差す。
小屋から見えるぎりぎりの位置だろうか。
二人はそこへ向かってゆっくりと近づいていく。
「おい! 誰かいるのか! こっちから戦う意志はない!
島の脱出を考えている! 信用して協力してくれ!」
耕一が声をあげる。
返事は無い。
「あそこ! 耕一さん!」
彰がさらに奥を指差した。
「どこだ!?」
「あの辺りに、また『見え』ました」
耕一の目には、木の裏に隠れようとするウサギが映った。
「あの木の裏です」
(ウサギの隠れたあの木か…)
遮蔽物を利用しながら、徐々に徐々にと近づいていく。
ここから小屋は遠い。まわりこまれたら小屋に侵入されていしまうかもしれない。
(北川君。その時は頼むぞ…)
耕一はその可能性は頭のすみに追いやり、目の前のまだ見ぬ敵に意識を集中した。
(相手はどういうつもりなんだ?)
彰も頭を働かせる。二対一なのは相手も気づいているだろう。
だがこっちの呼びかけに反応しない。投降が最善と思えるのに。
(よっぽど強力な銃器でも持っているのだろうか?)
少々不安になるが、耕一が勇敢な戦士であることは分かっている。
そして二対一だ。
「少し先行する。周りに気をやっておいてくれ」
耕一が彰の先に出る。
彰は周りを警戒。
「おい! 誰かいるのか! こっちから戦う意志はない!
島の脱出を考えている! 信用して協力してくれ!」
また返事が無い。
『あるはずがないのだ』
記憶をまるまる捏造するには大量の力がいる。
なら少しだけ改竄してやれば良いのだ。
――「うう……。初音ちゃん。いい子だ〜。がんばり屋さんめ〜」――
―― 初音を抱きしめ、ほお擦り。そして無理やり唇を奪った。――
――「耕一お兄ちゃん! 私には彰お兄ちゃんがいるのに!!」――
―― 再会はそこで訪れた。――