フランクの思い


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見つかった。
フランクがそのことに気付いたとき、
まず最初にしたのは逃げる事だった。
木々に紛れて森の奥へじわじわと後退する。

今となっては少年以外の参加者と戦うつもりはない。
しかし、自分は長瀬なのだ。
こんな馬鹿げた殺し合いに巻き込まれ、
その首謀者たる自分達を憎まないものなどあろう筈がない。

その怒りは当然だし、殺されるのもやむなしと思う。
だが、ここで戦闘になるのはまずい。
騒ぎを少年に嗅ぎつけられては元も子もない。
少年を、倒す。
それだけは。なんとしてもやらねばならない。

「……フラ……さ……!」

ふと。遥か記憶の底から、自分を呼ぶ声がした。
それは優しい記憶。
モノクロームの景色の中で、自分は一人の少女を見ていた。

「…芹…! …危な……!!」

せり……
せりか。
そう。そんな名前の少女だったか。

フランクは思い出していた。
源四郎に連れられて店にやってきた、双子の少女達のことを。
元気に走り回っていた妹とは対照的に、
姉はいつも源四郎の後ろに隠れて、伏し目がちにこちらを見ていた。
妹に「このおじさんはこわくないよ」と促され、おずおずと前にでてきた姉。
自分の入れた紅茶を飲んで、穏やかに笑いあう二人を見ていると、
こちらまで癒されているような気さえした。
不思議な少女達だった。

「フランクさん! フランクさんでしょ!?」

はっ、とフランクは目を覚ました。白日夢でも見ていたのか?
いつのまにか、自分を呼ぶ声はかなり近くまでやってきていた。

フランクは思い出した。
来栖川芹香。双子の少女の生き残り。
こちらに近づいてくるのは、あの子なのか。

少年を倒す、それが今の自分の全て。
だがもし自分が失敗したら。
自分の知りうる事だけでも、誰かに託すべきかもしれない。
それがあの少女にならば。
託せるかもしれない。

フランクは狙撃銃を隠すと、両手をあげて茂みから立ち上がった。

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