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姉妹


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お世辞にも優しいとは言い難い苛烈な日射しが、三人に容赦なく照りつける。
先ほどまで降っていた雨が乾き、湿気が肌にまとわりつくような感じがして不快感が増す。
なにより、彼女たちは数時間前まで地下にいた。急に高い温度と湿度の場所に出てしまえば、拭うのも億劫になるほどに汗が吹き出るのも当然だろう。
彼女たちは、寡黙に歩く。聖地に向かう巡礼者のように。
先頭の少女は首から下げているのはサブマシンガン。それを腰だめに構えながら歩く。そして、その後ろを歩く二人も日本で平和に暮らしていれば一生お目にかかることはない銃器を持ち歩いている。
髪がショートの少女が一番前を歩き。その後ろにセミロングの幼女。そして、ロングの女が続く。
真ん中の幼女がときどき、首のストラップに掛けられた丸い機械に手をやる。先頭の少女は前方を、後方の女は側面と背面に警戒する。
突然、正面の丈が長い草が揺れる。
三人は銃を構えながらも散開し、遮蔽物に向かって走る。木の陰に隠れながら何者かが潜んでいる場所を警戒する。
迂闊に発砲することを彼女たちはしなかった。それは、彼女たちが訓練された兵士だからではなかった。
彼女たちの戦いは人を殺すためではない。生き残るためにある。その為には、自分や身内だけではなく、会ったこともない他人も助ける必要がある。だからこそ、無闇な発砲は躊躇われる。
緊張が続く。
草が揺れる音は消えない。
暑さのためではない汗が彼女たちの頬を伝う。拭うことはできない。
銃を持つ手の平にも汗がにじんでくる。
不意に、何かが草の中から飛び出す。
彼女たちは、それに銃口を向ける。

その先には、まるで不思議そうな顔を彼女たちに向けるウサギがいた。

「ああ、疲れる」
ショートカットの女がそう言って地面にへたり込む。幼女はウサギに何とか近づこうとしたが逃げられてしまい、やはり座り込んでしまう。
ただ、最後尾にいた女は未だに周囲を警戒していた。
「千鶴姉。用心のしすぎだよ」
その言葉が聞こえたからだろうか、やがて千鶴と呼ばれた女は、地面に足を投げ出した幼女の手を引っ張り、立ち上がらせる。
「ボクも梓さんの言うとおりだと思うなぁ」
そう言われた千鶴は苦笑いをする。そして、彼女の手を優しく握ったまま、梓の元に歩いていく。
そして、梓にも手を差し伸べる。梓はそれを握って、起きあがろうとした。
だが、それはかなわなかった。
「何やってるんだよ、千鶴姉」
千鶴は逆に梓に引っ張られる形で地面に転がってしまったからだ。
「うぐぅ」
そして、千鶴が片手を握っていた幼女もまた一緒に転がる。銃が暴発しなかったのは僥倖だった。
自力で立ち上がった梓は千鶴の顔を見るとその異常に気が付き、もう一人の女にここで休憩することを宣言した。

軽い過労、というべきものであろう。千鶴は木陰で軽い寝息をたてている。
極度の緊張の連続。溜まった疲労。それに急激な暑さに体内で温度調整が出来なかった、というのもある。防弾服が温度を発散させづらい、というのも原因のひとつだ。それに、施設内で摂取した毒もまったく効いていないわけでもなく、千鶴の抵抗力を奪っている。
それらの要素が合わさり、現在の症状を引き起こした。だが、若い千鶴なら少し休息をとれば、すぐに元気を取り戻すだろう。
「千鶴さんって、すごいんだね」
空を見上げながら幼女が呟く。
「ああ、うん」
同じく、梓も空を見上げながら頷く。
もし、本人が目を覚ましていたら、梓は首肯できなかっただろう。
「ボクもお姉さんが欲しかったなぁ」
その視線の先には鳶が輪を描いている。
「そう……」
梓は曖昧な返事をしたきり二人は押し黙ってしまった。そして、風が流れる音と鳶が鳴く声しか二人の耳に入らなかった。


千鶴は夢を見ていた。
彼女の大切な妹たちの夢だった。

どこか薄暗いところに、みんなはいた。
ああ、そうだ、これからみんなで夏祭りに行くんだ。
友達と一緒に行く約束を断ったのはちょっと心苦しいけど。
遠くに見慣れた神社の鳥居が見える。そして、数多くの提灯と盆踊りの櫓も。
お祭りは賑わっている。沿道に連なっている屋台には多くの人で賑わっている。

リンゴ飴。かき氷。たこ焼き。ミニウサギ。ヨーヨー釣り。型ぬき。カルメ焼き。焼きトウモロコシ。金魚すくい。イカ焼き。ひよこ。スーパーボールすくい。おめん。輪投げ。お好み焼き。べっこう飴。射的。

梓は金魚すくいが大好きだ。でも、あまりじょうずじゃないから、なんどもやろうとする。お小づかいが無くなるから、二、三回でやめさせよう。
楓はつめたいものをよく食べる。特にブルーハワイのかき氷は屋台にしかないから、お祭りではかならずだ。食べ過ぎておなかをこわさないよう注意しなきゃ。
初音とは、はぐれないように気をつけよう。まだ小さいし、目をはなすと、どこに行くかわからない。人が多いから手をしっかりにぎろう。

わたしも、なにかやろうかな。ううん、でもいいや。梓のとなりで金魚すくいを見るのは楽しいし、楓といっしょにたこやきを半分ずつ食べるやくそくしたし、初音は……

あれ、はつねがいない。
どこに行っちゃったの? あんなに、はなれちゃいけないって言ったのに……。
ううん、ちがう、わたしがわるいんだ。はつねの手をしっかりにぎっていなかったからわるいんだ。

はつね。
どこ、はつね。
おねえちゃん、おこらないから、帰ってきて。

あ。
はつねだ。よかった。こっちに走ってくる。
手になんか持ってる。おもちゃかな。きっと、あれがほしくって、どこか行ってたんだ。
なんだろう?
鉄砲?

私は初音に向かい手を振った。
しかし、走ってきた初音は私の横を通り過ぎた。
怪訝に思い、私は振り返る。なぜか、小さいと思っていた初音は自分よりも大きく見えた。
そして、私は信じられないものを見た。
セーラー服を着た楓の胸に初音は拳銃を押しつけ、引き金を引いた。
胸が赤く染まり、定まらない視線を虚空を見ながら楓は倒れる。
驚愕し、目を剥く梓。
私は初音に言葉を投げることも体を動かすことも出来ない。
そんな私を後目に、初音は躊躇もなく梓の額に銃口を向け発砲した。
梓の顔が風船のように爆ぜる。梓の制服が朱に染まる。
そして、私になにか暖かいものが降りかかる。
それが、かつて梓だったものだと理解するには時間が掛かった。
「あっ……ああ、あ」
私の口からはただ呻き声が、形になった言葉が出てこない。
血溜まりの中に倒れている楓。
首から赤い噴水を流す梓。
「本当は、私の方が偽善者なんだよね……」
初音は私に銃を向けながら、そう呟く。
「は、はつね。あなた、なにを……」
動転した私の問いに耳を貸さず、朗々と初音の声は続く。私が今まで聞いたことがない、冷たい言葉を。
「大切だった人を殺され、その人の思いを叶えるために同じくらい大切な人たちを殺したの……」
「な、なにを、言ってるの? 初音」
寒い、体が震える。これは恐怖? なぜ? 初音が?
冷たい風が初音の方から押し寄せて来る。そして、私は見てしまった。初音のその目を。
それは狩猟者の目、だった。
「ソシテマタ、ツライ、ヘイワナヒビヲ、スゴスノ……」

「千鶴姉。千鶴ねぇ!」
急に呻き声を発した千鶴に驚き、梓は体を揺り動かす。
やがて、ゆっくりと目を覚ました千鶴を見て、心の底から安堵する。
「どうしたの? 千鶴さん。すごい汗だよ」
千鶴は自分の体を見回す。首筋や脇の下にかなり汗をかいている。
梓はバックからタオルと水を取り出し、千鶴に渡した。
「で、千鶴さん。どっか体の調子が悪いの? あの、もしかして、ボクが、ボクが……」
両手をふさがれながら、千鶴は、その泣きそうな頭を優しく抱いて、大丈夫よ、と言葉を投げる。
「じゃあ、なんか変な夢でも見た?」
意地の悪い笑みを浮かべ、梓はそう言った。だが、その問いに千鶴は曖昧な返事をした。さすがに、あなたが死ぬ夢だとは言えるわけがなかった。

夢。
たかが、夢。
だが、夢だと一笑に付して片づけるのは簡単だ。だが、それが一部真実を含有することがあることを、千鶴は耕一の経験則上から知っていた。
そして、初音の言葉もかつて、自分に投げられていたものに似ていることも覚えている。
千鶴は自問する。では、どうするか? 初音に会いに行くか?
いま、千鶴が初音に会っても事態は好転するとは思えない。だが、このまま嫌われたままではいたくはない。
だが、芹香に会いに行くという目的を放り出すわけには行かない。繭たちも自分たちの帰りを首を長くして待っている。

「……千鶴姉」
「千鶴さん……」
思考の淵に入ってしまった千鶴に二人は心配げな顔を向ける。
千鶴は幼女から丸い機械を借り受けて、あらためて、芹香と、耕一、初音の位置を調べる。
そして、千鶴は立ち上がり、二人に目的地を告げた。


【千鶴  鉄の爪(左) 防弾チョッキスクールタイプ Cz75初期型 人物探知機 所持】
【梓  防弾チョッキメイドタイプ H&K SMG2二丁 所持】
【あゆ  ポイズンナイフ×2 イングラムM11 種 所持】

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