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相似性


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 風に揺れる枝葉越しに感じる。
  厳しい表情と、冷えた拒絶の意志。

 振り向かなくても解る。
  トーンダウンしたその声と、鋭い殺気。

「……」
「おっさん、どういうつもりだ?」
「叔父様…」
両手をあげた叔父様と銃を持った往人の、ちょうど中間で私は立ち止まっていた。
いや、前後から感じる圧力に挟まれて、どこにも動けなかったと言ってもいい。
ただその名を問うだけが、私にできる全てだった。

「…叔父様?」
「……?」
叔父様は、少々の疑問を含んで私の名前を呼んだ。
今の私に疑問を感じるということは、私を知っている人物であることを証明している。
そこには何の感動もなく、ただ事実を確認するだけの響きがあるのみだったけれど。

がちゃり、と銃器の金属音が聞こえる。
「芹香、その髭親父は-----叔父様なんて、上品なもんじゃない」
「あなたに何が解るというの!?」
往人に否定されたのが苛立たしい。
だから私は、重ねて問う。
「叔父様!?」
「……」
答えは”去れ”と一言だけ。
否定も、肯定もない。


「ふん…あんたが芹香の何だろうと、だ。黙って去れるわきゃ無ぇだろうが。
 …あんたみたいな奴を、放っておくわけには、いかないんだよ」
再び殺気が迸り、往人が狙いをつけたのが感じられる。
二人の間に何があったのだろう?
黒く横たわる、怨恨の溝の深さは私に計れる物ではなかった。
「どうして?どうしてよ!?」
叫び、振り向いた私の視界に入ってきた往人の表情は、驚くほど叔父様に似ていた。
もちろん髭もないし、顔つきは全然違う。

 それでも、似ていると思ったのだ。
 どちらも初めて見る、恐ろしく厳しい顔だった。

「……」
「芹香、どけ」
二人は同時に、発言した。

叔父様と、往人を交互に見ると、射線の半ばに私の頭があることが解る。
「どかないわよ!!」
意地ではなく、憤りがそう叫ばせる。
往人から返ってきたのは、食いしばる歯の隙間から漏れた、冷たい怒りの声だった。
「…どういう手段を使ったのかは、まるで解らん。
 だが間違いなく、俺を撃ったのは…お前の”叔父様”なんだよ」
「-----そんな!?」
「お前にも見えてただろうが!
 そこの茂みに、ライフルを隠していたのをよ!!」
往人の怒りが弾ける。

「……」
否定も肯定もなく。叔父様の警告が聞こえる。
ただ”去れ”と。
それに対して往人が、荒ぶる意志を押さえて尋ねる。
「どういう心境の変化だ?
 何を見ていた知らないが、なぜ俺を撃たなかった?
 どうせお前らは、皆殺しがお望みなんだろう?」


 …返事はない。
  その問いが、宙に浮かぶ。


「往人…やめてよ…」
私は彼を咎めることしかできない。
だから彼に声をかけようとした。

動きで沈滞を破ったのは、叔父様だった。
往人がびくり、と銃に緊張を伝えたのが見え、どうにか発砲を抑えたのが解る。
叔父様は静かに手を上げて、遠く櫓の方へ指をさしていた。

 「……俺は、あの少年を殺す」

あとは、お前の好きにしろ。
そんな風に続ける。
叔父様がはっきりと話すのを、私は初めて聞いた。
それだけ言うと、驚く私と途惑う往人を無視して振り向き、再び茂みに入っていく。

「あの…少年……って?」
私には何の事だかまるで解らない。
櫓の人影も、はっきりとは視認できない。
しかし往人には見えたのだろうか。
何かを悟ったらしく、厳しい表情を崩さないまでも、緊張を解き始めていた。

銃を下ろし、そして叫ぶ。
「…あいつは…あの小僧は、何者なんだ?
 何故あんたは、あいつを付け狙うんだ?」
叔父様は立ち止まり、少しだけ考えてから、背中越しに答える。
「……」


私たちに向けて、話題が飛躍したような答えが返ってきた。
「…神奈備命の長き腕?」
「ああ?神奈備命?そいつはなんだ?
 そんなんで納得できると思ってんのか!」
往人が叫ぶ。
当然、私にもさっぱり理解できない。
「……」
「翼を広げ魂を啜るもの?」
「普通に話せ!普通に…ちょっと待てコラ!」
往人が更に声を荒げる。

「あんた”翼”と言ったか?まさか、白い翼のおっかねえ女だ、とか言うなよ!?」
そうだ、あれは夢の話のはず。
抽象的なイメージだと思われたそれが、唐突に現実味を帯びてきたため、往人と私は途惑う。
叔父様が若干驚いた顔をして体ごと振り返り、小さく、だがしっかりと頷く。
「……」
「”翼人”神奈備命の分身…?」
「マジか」
…その時点で私には解らなかったが。
往人が夢の中で見た”翼人”と、木の上に転移する直前に出会った”少年”という存在から
受ける威圧感は、どちらも同じ物に感じたために、往人の理解は早かったらしい。

往人の理解を感じたのか、叔父様は再び踵を返し、歩を進め茂みに入っていく。
「おっさん!もう一つ教えろ。
 …あいつは、何をしようとしているんだ?」
また足を止め、背中越しに振り向く。
今度は、私の方を見る。
「……」
「神奈を滅ぼす”魔法使い”を…狙っている?」
「おい、魔法使いって…」
私は往人と顔を見合わせる。
話題の輪から弾き出されていたと思っていた私が、知らないうちに中心に据えられていた。


「叔父様、さっきの閃光はやっぱり魔法なのね?」
「つまり、あの小僧は羽根女の子分って事か?」
二人同時に発した疑問に目だけで頷いて、茂みの中からライフルを拾う。
叔父様と往人が、私を挟むように銃器を手にして相対する。

だが二人とも、既に先ほどのような殺気は帯びていなかった。


「最後に、ひとつだけ教えろ」
往人が脱力しながら、溜息混じりに尋ねる。
「…あんたが、俺たちの背中を撃たないって保証はあるのか?」
問いを受けて、叔父様はただ片眉を上げた。
そしてにやり、と笑い肩を竦める。
往人も笑う。
「…負けたぜ、おっさん」
僅かに歯を見せながらも、口唇の片端だけを吊り上げた、悪人笑い。
私だけをのけ者にして、二人はいつの間にか手を組んでいたのだ。
その目的は、ただひとつ。

 『……俺は、あの少年を殺す』
 それは、私の知らない叔父様。
 そして、私の知らない往人。

呆然とする私を残し、叔父様は木に登り、往人は林を出て櫓の方へ歩いて行く。
「……どうなってんのよ…?」
そこに答える者は、誰もいない。
釈然としない気持ちに不満を募らせて、私は往人を追いかけることにした。
「もう、待ちなさいよ!!」

 風が、吹いている。
 揺れる木々の囁きの中に、叔父様がいる。

 そして先行く往人の、遥か向こうに。
 ようやく私にも、人影が見えた。


【国崎往人、フランクと少年打倒に向け共闘】
【国崎往人 来栖川芹香 櫓へ】
【フランク 再び樹上へ】

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