導く声<前編>
ガピィーーーーーーーーーガガ・ガ!!
櫓の頂上に設置された巨大なスピーカーたちが、共鳴と接続音を撒き散らす。
隣の室内では、緊張した面持ちで3人の男女が声を抑えていた。
『島内に生き残る、全ての善意ある参加者たちよ!!
聞いているだろうか?
俺は坂神蝉丸。
最初に断っておくと、管理側の者ではない。
諸君らと同じ、被害者である参加者だ』
「(・∀・)蝉丸、かっこいい…」
「ぼくにはできない演説だね」
『もはや体内の爆弾に危険は無く、我々の同志は管理側の拠点に攻め入ることさえ始めている!
参加者同士で殺しあう愚を悟り、今こそ手を組んで立ち上がるときなのだ!
怯え隠れる者も!
後悔を胸に血塗れた腕を抱く者も!
仲間と共に脱出を願う者も!
全ての者を、俺は歓迎する!!』
「(・∀・)なんか決めた内容より、すっごく熱いね」
「この情況でのアッピールは、過剰なほど効果があるかもしれないね」
『繰り返す!
俺は全ての者を歓迎する!
今こそ我々は手を組んで立ち上がるべきなのだ!!
我が意に賛同する者は、学校に集って欲しい。
そして我らが希望に反する者どもよ、決着をつけようじゃないか!!
現在俺と志を共にする仲間は…』
「(・∀・)…そう言えば、敵も来るかもしれないんだね」
「君は……気付いて、なかったのかい…?」
『学校は、市街地南部に広がる山の東側にある!
街から山を見て、その左だ。
繰り返す……』
一気にまくしたてて、さすがに息を乱した蝉丸が振り向く。
『…ふう』
『(・∀・)せみまるっ!』
離れていた月代が駆け寄り、少年がその後を追う。
『(・∀・)お疲れさまっ!』
『もう一言、魔法使いの件もお願いできるかな』
『ん?…ああ、済まん、そうだったな』
やはり自分の意志から出た物でない情報は、忘れがちなのだろう。
蝉丸は苦笑して、改めてマイクに向き直る。
『(む…電源を入れたままであったか…)
あー…追加の情報だ。
集合にあたって現状の打破のため、諸君にお願いがある。
恐らく既に知らぬものはいないだろうが、我々の中には多くの異能者が存在する。
中でも現在求められているのは”魔法使い”だ!
心当たりのある者は、是非とも名乗り出て欲しい。
その知識と、能力に期待する!』
蝉丸は今度こそ全てを語り終え、電源を切った。
これで当初の目的は達成されたということだ。
「では早速、移動するとしよう」
「そうだね。
”敵”が音源を聞きつけて、ここに来る可能性も無視できないからね」
真っ先に少年が外へ向かう。
(…お別れの時間くらいは、残しておくよ)
少年の顔は、いつものように笑っていたのだろうか。
それは、誰も知らないことだ。
少年自身にすら、解らなかった。
月代が蝉丸を見上げ、その袖口を掴んだまま、ぽつりと呟く。
「(・∀・)…蝉丸……」
「月代、そんな声を出すんじゃない。
初音君やマナ君をはじめとして、他の皆と思えば俺たちはよほど幸運だろう?
その幸運を、全ての参加者に分け与えるつもりで、俺はここに来たんだ」
いつになく多弁な蝉丸。
演説気分が残っているのかもしれない、そう思うと口元が緩んでくる。
それがなんだか照れ臭くて、月代は下を向き、こくりと頷く。
「(・∀・)…うん」
「大丈夫、すぐに会える」
「(・∀・)…うん」
照れ臭いだけのはずなのに。
何故だか涙が出そうになる。
「心配、するな」
「(・∀・)…うん」
「皆で帰るために、俺はこうしている。
もちろん、俺とお前も、一緒に帰るんだ。
…そうだろう、月代?」
「(・∀・)…うん」
蝉丸の言うことは間違っていない。
それでも涙が止まらなくって。
月代は、思わず蝉丸に抱きついていた。
「(・∀・)蝉丸……学校で、会おうね」
「ああ、学校でな…」
【坂神蝉丸 学校へ】
【三井寺月代 少年 療養所へ】