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導く声<後編>


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丸く狭い視界が、左右に揺れる。少年が、ついに動き始めたからだ。
「……」
スコープ越しに五人の行動を監視しつづけたフランクは、気持ちを入れかえて再びライフルを構えなおす。
放送に足を止め相談していた芹香たちも、再度動き始めようとしている。

放送施設から出てきた三人は、二手に分かれて行動することにしたようだ。
男が一人、こちら側へ向かってくる。
はずれだ-----少年は、市街地の中へと向かっていく。
「……」
人知れず悪態をつき、木から飛び降りる。
このまま林の中を迂回して接近し、市街地で改めて狙撃するしかない。
幸い少年に同行する少女のに合わせてだろう、移動速度は極めて遅い。
無謀な攻撃は避け、ひたすら位置取りを考えるべきだ。
思考が沸騰しないように自分を戒めながら、フランクは林の中を駆け抜けていった。


遠く櫓の方から歩み寄る影を見つめ、芹香は尋ねる。
「…あれが坂神蝉丸さんってわけ?」
「当然、そうなるな。
 用事があるのは…あっちの小さい方なんだけどな」
つまらなそうに遠くを見ながら、往人は言った。
いや、苦々しい顔と言ったほうがいいだろうか。
「……どうしたのよ、渋い顔して」
「ふん…考えてもみろ。
 露骨に魔法使い探しを挟むように要求されて、素直に受けてただろ。
 あの坂神ってのは、小僧を信用しているんだよ」
「たしかに、そうなるわね」
当然の分析に、素直に頷く私を、往人は呆れ顔で見つめる。
「…下手すりゃここで、殺し合いになるだろうが」


-----考えてもいなかった。
放送を聞きながら、往人から教えてもらった少年の凶暴性は、にわかに信用できる物ではない。
遠くで少女を道連れに歩く姿からは、全く想像がつかなかった。
私がその話を信じる気になったのは、叔父様と往人の態度が一致しているからに他ならない。
「そっか…普通にしている限り、相手にボロは出ないのね…って、どうするのよ!?」
「林を背にしているとは言え、向こうもそろそろ、こっちに気が付いているかもしれんな。
 不自然な話だが…街に用があるとでも言って、すれ違うしかないか?」
「…あからさまに怪しいわよ、それ」
「くそ、やっぱりか。まじいぜ…」

進退窮まった、というところだろう。
この情況を覆すことができるのは、皮肉なことに敵とみなした少年だけなのだ。


蝉丸と別れてすぐに、月代と少年は市街地のはずれを歩いている。
「ここから遠いのかい?」
「(・∀・)ううん、そんなでもないけどね」
ふうん、と無感動に答える少年。
実際、特に興味はない。蝉丸の仲間達には魔法使いがいないことは判っているからだ。

「…ところでそのお面だけど」
「(・∀・)…うん?」
「どうあっても、取れないのかい?」
「(・∀・)うん…色々試したんだけど…」
それは残念だね、と少年はそう言いながら本を開く。

仮面とその本に、関係でもあるのだろうか?
そう思って月代が覗き込む。興味津々というやつだ。
「なあに、その本?」
「…いや、これで仮面を外せないかと思ってね」
ぴり、と少年がページを破る。


月代にとっては、何のことだかさっぱり解らない。
どうしてページを破く必要があるのだろう?
「(・∀・)なんで…?」
そう尋ねようとした月代に、少年が言葉をかぶせる。
「…最期くらいは、綺麗に死にたいだろうからね」
「(・∀・)…え?」

 驚き、見上げたその眉間に。
 すとん、と硬質化した紙片が突き立った。

「(・∀・)…!?」
かくん、と右膝の力が抜けて、斜めに倒れこむ月代。
ぱかり、と割れ落ちる仮面。

しかし紙片は、そのまま彼女の顔から離れることはなかった。


どさり、と重い音が響いて、少女が倒れる。
割れた仮面を拾うと、少年は蝉丸の姿を求めて移動する。
「少々、忙しくなるね」
市街地から出て林側を観察する。
まだ林には入っていないはずだ、そう思いながら遠くを見る。

蝉丸を探しながら、少年が無意識に割れた仮面を重ね、左手に持ったその時。

 『蝉丸……』

声が、響いた。
先ほどの放送にも劣らぬ、大きなささやき。
そして声の主は、もはやこの世にいないはずの月代。

 『…ごめん、学校…行けないよ…』

少年は驚き、左右を見る。
いや、原因は手の中にあった。
「そうか、この仮面は…」

 『…せみまる…』

この仮面は、人格操作か何かの研究用に教団によって作られた物だったのだろう。
今や仮面自体に、月代の意識が投影されている。
「…ご同類ってやつだね」
擬似人格を貼り付けられた自分とは、親戚のようなものだ。

 『…さよなら』

ぱきん、と小さな音がして、仮面が砕ける。
握り締めた少年の手の中で、外れた仮面はプラスチック板のように簡単に割れていた。
(もしもこの仮面を、僕が付けていたなら。
 …もう少し長く、郁未と居られたかもしれないね)

ようやく、蝉丸がこちらへ走ってくるのが見えた。
仮面は、もはや何も話さない。
溜息をついて、少年は苦笑いをする。
自分が何を求めているのか、解らなくなってしまった気がする。
(…考えている暇はないね)

少年は蝉丸の進路を予想し、月代の遺体より先に発見できるように仮面の破片を置いた。
そして建物の影に隠れ、蝉丸の到着を静かに待つ。

 彼女の死を確認した瞬間こそ。
 その一瞬こそが、彼の隙となるだろう。


【三井寺月代 死亡】

【残り21人】

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