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サヨナラ


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『島内に生き残る、全ての善意ある参加者たちよ!!』

私と観鈴がその放送を聞いたのは、耕一さんから教えてもらった喫茶店までもうすぐのところだった。
「郁未さん…今の」
そう問い掛けてくる観鈴に対し、私は手で制して放送に耳を傾ける。

『今こそ我々は手を組んで立ち上がるべきなのだ!!
 我が意に賛同する者は、学校に集って欲しい。 』

「郁未さん、これって!」
目を輝かせて観鈴が弾んだ声を出す。
その気持ちは私も同じだ。こういう人がいるというのは、それだけで希望が湧いてくる。
だけど。
(手を組んで、か)
私は、それに参加してよいのだろうか?私の心はいつ消えるともわからないのに。いつ姫君の手先になるともわからないのに。
だが、それでもこの放送が明るい材料であることに変わりはなかった。
希望があるということはいいことだ。
だが、私のその気分はあいつの声で一瞬にして消し飛んだ。

『もう一言、魔法使いの件もお願いできるかな』

…あいつの声。懐かしくその声。私の好きだったときのままのその声。
でも私には、継嗣である私にはわかるのだ。
普通の少年のものにしか聞こえないその声の裏には空虚、そして殺意しかないということが。
「グッ…」
痛みを感じないはずの私なのに、ずきりと胸に痛みが走る。
熱い、とても熱い。
感応しているのだ。継嗣たる自分が、主たる者の分身の声に。

「?どうしたの郁未さん…!!」
うめき声をあげた私に観鈴が振り返り、そして息を呑んだ。
さぞかし凄絶な顔をしていたのだろう。私は。
「郁未…さん」
だが、それでも観鈴は私におずおずと声をかける。
「…なんでもないわ」
「で、でも」
涙ぐんで観鈴はいってくる。そこまですさまじい表情をしてるらしい、私。
(…また、泣かせちゃったわね)
チラッとそんなことが頭を掠める。
「お願い、観鈴。静かにして。放送を聞かせて。大事なことなの」
そう、これは大事なことだ。おそらくあいつは…
『…心当たりのある者は、是非とも名乗り出て欲しい。
 その知識と、能力に期待する!』
その声とともに放送は終わった。
だが、それでも胸の奥は熱いままだ。
「…大変ね」
「え?」
「あの、放送の中に男の声が二人あったでしょ?」
「あ、うんあったね」
「そのうちの一人、後ろで喋っていたほうはね、管理者の手先なの」
「そ、そうなの!?じゃ、それって…」
「多分、このままだったら放送をしていた男とあの女の子はだまし討ちされるわ。あの放送を信じて学校に集まった人たちもね」
「そ、そんな…」
「私は、一刻も早く警告をしにいかなければならない。あいつと対決をしにいかなくてはならない。だから」
私はそこで言葉を切って、そして、観鈴から目をそらして、
「ここでお別れよ。観鈴」
そう、いった。

「…が、がお…お別れ…」
私の言葉に、観鈴の目が丸くなる。
「だから、お別れよ。観鈴はお母さんに会いに喫茶店に行くんだから」
「で、でも急すぎるよ…こんな…」
「観鈴」私は、今度はまっすぐに観鈴の目を見た。「お母さんのこと、好き?」
「うん…好きだよ」
「そう。私もよ。私もお母さんのことが大好き。いいものね、お母さんって。
 お母さんといることって本当に素敵な事だもの」
今の私は、お母さんの思い出は辛いものだけど。
「だから、お母さんのこと大切にしないと駄目。耕一さんがいったこと覚えてるでしょ?
あなたが死んだと思っているって。だったら、早く安心させなくちゃ」
「それは…そうだけど」
「それにね、いい機会ではあるわ。どの道、いずれは別れようと思っていたんだし」
「え…なんで…そんな風に思ってたの…?」
「私は侵食されているから。このさきどんな風になってしまうか判らないから」
侵食のこと、姫君のこと、あいつの事は観鈴に話していなかった。
話すことが辛いことだったのもあるし、
多分、この子に恐れられるのが怖かったこともあったかもしれない。
けど、もうそれも終わりにしなくてはならないだろう。
だから、私は、今私の身に何が起こっているのか、この島でなにが起きているのか、知っていることを全て手早く観鈴に話した。
「…このままだと私はあなたに何をするか判らないわ。だから、お別れよ。なにがあるか判らないから気をつけてね」
喫茶店にいるのが観鈴の母親かどうかはわからない。けど、きっと信用できる人なんだろう。少なくとも私よりは。

「郁未さん…」
ようやく事態を理解できたのだろうか。観鈴の目から涙が零れ落ちる。
(最後まで泣かせちゃったわね)
私は、唇でそっと観鈴の涙をぬぐう。
「観鈴、あなたに会えてよかった。あなたに会えて、晴香や由依とすごした日々が思い出せそうだった」
…それは結局無理だったけれど。
「さようなら」
笑顔でいれただろうか?優しい声が出せただろうか?
そうだったらいいな、と思う。
もうそれがわからないぐらいに侵食は進んでいるけど。
そうして、一方的な別れを告げて、私はまだ呆然としている観鈴から背を向けて、
私は全速力で走り始めた。
きっとあいつのところに辿りつける。放送によって場所はだいたい判った。後はこの胸の感応があればきっと辿りつけるだろう。
だから、私は後ろを振り返らずに走りつづけた。


【天沢郁未 救急セット、ベネリM3ショットガン、フランクの荷物、自分の荷物所持】
【神尾観鈴 G3A3アサルトライフル、少年の荷物、自分の荷物所持】
【観鈴がこの後どう動くかは、次の書き手次第】

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