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使徒


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「彰さーんっ!!」
 葉子は彰の姿を求め市街地を彷徨っていた。
 すぐ近くから、初音とマナの声が聞こえてくる。
 お互いの声の届く範囲で行動することに決めていた。
 満足な武器もない3人だったから、出来れば少しでも離れない方が望ましかった。
 けれども、それでは人捜しに不向きすぎる。
 苦慮の末出されたのがこの結論だった。
 しかし、依然として彰の姿は見つからない。
 姿を隠しているのか、それとも見当はずれの方向を探しているのか。
 それすらも見当が付かない。
(こんな悲劇が、起きてはいけないんです。なんとしても、彰さんを見つけませんと……)


 FARGOでは感じることのなかった、人々の喜怒哀楽。季節の変遷。
 様々な事象の移り変わり。
 郁未と出会えて良かった、と葉子は思った。
 あの時、外の世界を知りたくて、葉子は教団を飛び出した。
 葉子はその外の世界で、郁未から感じ取った様々なものを肌で感じ取った。
 なんて刺激的で、素晴らしい世界なのだろうかと、葉子は思った。
 無論、素晴らしいことばかりでないのも分かっていたが、それでも葉子はそう思った。
 しかし、身よりもなく、無一文の人間が暮らしてゆけるほど世の中は甘くなかった。
 葉子は程なくして、FARGOに逆戻りする事になる。
 Aクラスで唯一の生者である葉子は、教団を脱した事を咎められることはなかった。
 ただ、元の生活に戻っただけだった。
 元の、窮屈で退屈な生活へ。
 葉子の毎日はかつての通りに過ぎていった。
 そのあまりのひどさに、外の世界のことなど知らなければ良かったと思うときもあった。
 しかし、総じて葉子は郁未に感謝していたのだった。
 ずっと母に縛られて教団の教え以外に興味を持たないでいた自分を開放してくれたのは郁未だったと。
 母がその価値観に置いて葉子よりも優先した、不可視の力。
 不可抗力とは言え母を自らの手で殺してしまってからと言うもの、葉子にとってFARGO、ひいては不可視の力が唯一にして最高の価値観だった。
 己のエゴが許されない。許すことが出来ない。
 その呪縛を解いてくれた郁美と再会したい。
 今は動けないさだめだけれど、諦めはしない。
 もう、目は覚まされたのだから。
 郁未との邂逅で、得たものを絶対に忘れない。
 そして、いずれまたFARGOを出て郁未と過ごすのだと、葉子は決めていたのだった。


 このプログラムに郁未と自分が組み込まれると知ったとき、葉子は複雑な思いながらも郁未との再開の機会が到来したことを僅かに喜んだものだった。
 しかし、未だ再開は果たされていない。
 再開にはやる気持ちもあったが、その障害になるであろう高槻らの抹殺が重要事だったということもある。
 それに、一時的にとは言え行動を共にした人間を見捨てられるほど、他人に無関心にもなれなかった。
(郁美さん。あなたがこの心を下さったのですよ? そして私はそのことをとても嬉しいことだと思っているんです。だから……。ですから、もうしばらくの間、待っていて下さいね……。そして再開がなったとき、無事に島を出ることが出来たなら、あの時のゲームを二人でやりましょう……)


 その頃、晴香は七瀬と二人、灯台のような施設の奥深くに潜入していた。
『冒険を続きからはじめる』よ、と七瀬の言葉が何処からか聞こえてくるようだった。
行けども行けども、人の気配が無く、二人がやや気抜けした頃だった。
「ねぇ、あんた。何か嫌な感じがしない?」
 晴香が小声で問う。
「今さら怖じ気づいたって訳?」
 腰に手を当てて七瀬がやや小馬鹿にするように問い返す。
 質問に質問を返すな!! と、突っ込みたいところを晴香は堪える。
「……。違うのよ。なんかこう、すっきりしないと言うか……」
 そう言いながら、視線を中に泳がせて、適切な表現を探す晴香。
「大げさに言えば、『頭の中がざらざらする』って言うか……」
 表情を曇らせる晴香。
 しかし、七瀬はそんな晴香を笑い飛ばした。
「ここに侵入した緊張感でちょっとばっかり参ってるのよ。あちら側の施設って事で、随分と緊張してるのは私もそうだから」
 今度は晴香を安心させるような微笑みを見せて七瀬は付け加える。
「もうちょっとだけ、気楽に行こうよ。何かが起こる前に参ってるんじゃしょうがないからね?」
 晴香は七瀬の笑顔につられて頷く。
 そして七瀬に心配をかけぬよう、晴香は笑顔を返して言った。
「分かったわ。先を急ぎましょう!!」
 しかし、晴香の疑問は消えなかった。
 (本当にこの感覚は杞憂に過ぎないのかしら……?)
 
 
 そして、さらにその頃の郁未は……。


──何か奇妙な物に守られている者が一人おるの?
 じゃが、今一人は少しずつ余の影響を受けつつある。
 そして、もう一人じゃ。
 あの時のは半ば偶然じゃったが、しかし、二人が場所をおなじゅうしておったのが良かったの。
 アレがどれほどに強い意志を持とうとも、さほど時をおかずに『できあがる』じゃろう。
 なに、今はまだ己が意志で動いておるがよい……──

                                    【残り20人】

【葉子が守られているというのは、高槻の例の装置によって、葉子の不可視の力が封じられているために起きた神奈側の誤認です】

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