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幕開けは爆音と共に


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ふわり、と光が浮いてくる。
番号で人物位置を表示するレーダーの光点を、芹香は食い入るように見つめている。
往人がその後から、被さるように覗き込む。

 「……あれ?」

中央に二つの番号。033と037は往人と芹香のものだ。
往人が暗記しているのは023と024、晴子と観鈴だけ。
(おい、あいつの番号は何番だ!?
 そもそも、あいつの名前は何ていうんだ!)
(私に聞かないでよ!えっと、たしか…少年、だったかな?)
(ハァ(゚д゚)? そりゃ名前とは言わないぞ… )

しかし考えるまでもなく、すぐ隣に一つの光点があった。
…048番。近すぎる。
すぐ、隣。だが姿は見えない。それは、ホールの中だからだ。
往人は鋭敏に殺気を感じとり、芹香を突き飛ばす。
「あいた!…何す…!!」

 そして、銃声。

抗議をしようとした芹香の脚に、赤い液体がぱたたっと音を立てて生暖かい斑点を付けていく。
芹香のいた位置に置かれた往人の腕が、真っ赤に染まっていた。
「…往人!?」



びゅう、と大きな音がした。
街の外では心地よかった風が、ビルディングに乱され郁未の長髪を流している。
銃弾がかすめた跡を、なぞるように強く吹きつけていた。

 (どうすれば……)

銃声を聞いて生じた、一瞬の迷い。
だが、それには無限の長さと等しい意味がある。


くるりと鉄筋の骨組みをふり返ると、既に人影も物音も消えてしまっていた。
…つまり、全ての元凶の、少なくとも一端を担うであろう、あの髭の男を見失ってしまったのだ。
小さく舌打ちをして、追跡を諦めた時、ふと違った考えが浮かぶ。
髭の男の銃弾によって、少なくとも一人は倒れていた。
実は髭の男と少年は組んでいて、二人で参加者を狩ることにしたのだろうか?

(ああもう、考えても、仕方がないわ!)
少年の敵であろうと味方であろうと、危険な存在である事には変わりない。
常に遠距離から狙われる恐怖を感じたまま、今は少年のところに向かうと決める。

二発目の銃声は誰のものだろうか?
現在重要なのは、それだけだ。
…多くの迷いを両手一杯に抱えて、それらを保留したまま、郁未は走った。



ショックに震える脚を、どうにか制御して立ち上がろう、駆け寄ろう、とする芹香。
しかし往人は、先ほどフランクとの邂逅で見せた、狼のような眼をして、無言のまま血に染まった腕で芹香の襟首を掴むと、
凄い速さでビル影に引き摺って行く。
まず芹香を投げ飛ばし、続いて自分も転がり込むと、声を抑えて叫んだ。
(くそったれ、銃まで持ってやがったのか!)
(往人……)
(悪ぃが文句は安全になってからにしろ!
 方向からして…あのホールの、二階か三階から撃ちやがったな)
(違う、傷!腕は大丈夫なの!?)
(派手に血が出てるが、動く。今はそれで、じゅうぶんだろ)
そう言いながら、ホールの様子を見ようと顔を出す。

だが少年の姿を認める前に、住人は一人の少女を発見してしまった。
(おいおい…あいつは、小僧と一緒にいた女じゃねぇか!)
いつの間にか接近していたのは、たしか郁未とか言う女。
死体に驚くこともなく、きょろきょろと何かを探している。


やがて郁未の視線がこちら側を向きそうになるのを見て、住人は慌てて顔を引っ込めた。
そのまま肩口を芹香に引っ張られ、住人は彼女の膝の上に後ろにごろり、と倒れ込む。
(うお、何しやがる!)
(いいから!腕!見せなさい!)
いつの間にか開いた鞄から、包帯を取り出して往人の腕に巻く。
((……))
柄にもなく、無言の二人であった-----本来片方は、無言の人なのだが。

(こんな時に、何考えてんだか…)
照れもあって、ふい、とずらした住人の視線が、何かの視線と重なる。
(…おい……こいつは、何者だ?)
(え?ああ、小屋で分配した時に余ってた、クマ爆弾よ)
(「ぴこ」とか「ぴっこり」とか奇声はあげないんだな?)
(ぴこって…あんた何言ってるの?)
冗談だ、と言いながら起き上がり、治療を終えた腕でクマ爆弾を掴む。

あぐらをかいた脚の間にクマ爆弾を置いて、芹香のレーダーを見ると、003番が光っている。
(そうそう、もう一人お客さんがきたようだぜ…ああ、これだな)
(…ほんとだ。それで、この人は味方なの?敵なの?)
(どっちかと言えば敵くせぇが…いや、なんとも言えないな。
 あの小僧を探しているのかもしれないから、会わせてやれば解るだろ)
(…どうやって、よ?)
クエスチョンマークを頭に浮かべてしかめっ面の芹香に、にやりと笑みを投げかけて、往人はクマ爆弾を手にとった。

そっと顔を出して、郁未の位置と方向を確認する。少年の気配を感じたのだろうか、彼女はホールのほうを向いていた。
幸運に小さく頷くき、背中のタイマーを操作して無造作に放り投げると、ホールのある建物の、郁未と反対側の端に落ちた。
(ちょ…何してんのよ!!)
(なあに、自分の位置は知られてねぇと思っている、あの糞ったれに見せてやるのさ…得意の、人形劇をな!)
最後は半ば叫ぶように言い放って、頭を引っ込める。
耳をふさぎ、小さく縮こまる住人を見て、芹香も慌ててそれに倣う。


 ドカン!
  バクン!ドドドドドン!
   ガシャン!バリバリバリン!

爆発音。
続いて壁の抜ける衝撃と、天井の落ちる音。
吹き飛ぶ硝子と、それが地面に降り注ぐ音。

一瞬にしてホールは半壊し、今や火の手が上がっていた。
二人同時に顔を出して、様子を窺う。
(ちっ、思ったより大した事ねぇな…それでも、上手くいきゃこれで死んだだろ)
(どこが人形劇なのよ馬鹿!
 もっと凄かったら私達まで吹き飛んでたわよ!)
ぺちん、と住人をはたく芹香。
(そりゃそうだがよ…あいつの相手は、正直、荷が重いんだぜ…)

…ぼやく往人の希望は、かなわなかった。
爆破したホールの反対端、郁未の立つ正面に非常階段がある。
きい、と小さな音がして、三階の扉が開いたのだ。

姿を現したのは、もちろん少年。
三階までは抜けなかったのだろう、見たところ大きなダメージを負っているようには見えない。
往人は歯を食いしばり、再び狼のような笑みを浮かべて、銃を手に持ち立ち上がる。

 (さあ、楽しい人形劇の始まりだ)
 (もう、悪趣味よ)

 自分の事すら操り人形に例える住人を、ぴしゃりと芹香がたしなめた。




そしてその頃、少年と郁未は燃える炎の音だけを聞いて、静かに対峙していた。

見下ろす少年。
「…久しぶりだね、と言うほど時間は経っていないかな?」
見上げる郁未。
「……」
いつになく多弁な少年が、階段を降りてくる。
「具合は、どうだい?見たところ元気そうだね。」
対する郁未は、無言のまま立ちすくむ。
「……」

 郁未は、迷っていた。

 私は彼を、救えるのだろうか?
 私は彼を、殺せるのだろうか?

 そもそも私は、生き残れるのだろうか----?

 -----答えが出るのは、これからだ。



【郁未と少年、階段を隔てて対峙】
【往人と芹香、二人の様子を見物中】
【フランクは迂回中?】

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