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死神と、天使と、


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彼女たちは、七瀬彰を捜していた。
もう、どれぐらい前からだろうか。
彼女たちは今、町の東側にある森の中で、時間的感覚も希薄になるほど、彰を捜している。
三人を動かしているのは、後悔の念。
できるだけ広い範囲を、そしてお互いの無事を確認するために、声を張り上げながら、捜す。
殺人者と死神が大手を振って歩くこの島で、大声をあげることは誇張ではなく自殺行為。
だが、もちろん彼女たちは自殺志願者ではない。
なぜなら、それだけのリスクを負っても、捜さなくてはならない人だからだ。

「あきらさーん」
マナが叫ぶ。
「あきら、おにいちゃーん」
初音が叫ぶ。
「あきらさーん」
葉子が叫ぶ。


――島内に生き残る、全ての善意ある参加者たちよ!!  聞いているだろうか?

どこか、遠くから蝉丸の声が聞こえた。
呼びかけをすることによって、この戦いを終わらせる。
そう言って別れた蝉丸は、その言葉通りやってのけた。
彼女たちはしばしの間声をあげるのを止め、放送に聞き入る。

――現在求められているのは“魔法使い”だ!
心当たりのある者は、是非とも名乗り出て欲しい。
その知識と、能力に期待する!


魔法使い……
もしも、自分が魔法使いならば。
彰を簡単に見つけることができるかもしれない。
彰の所に飛んでいくことができるかもしれない。
彰の心の闇を晴らすことができるかもしれない。
そう、あり得ないことを初音は夢想する。

「あきらさーん」
遠くからマナの声が聞こえる。
初音はくだらない想像をしていたことに赤面し、あわてて同じように声をあげる。

「あきらさーん」
マナが叫ぶ。
「あきら、おにいちゃーん」
初音が叫ぶ。

違和感。
そして、二人は気が付いた。
鹿沼葉子の声がないことに。

「ようこさーん」
マナが叫ぶ。
「ようこ、おねえちゃーん」
初音が叫ぶ。

しかし、葉子の声が返ってくることはなかった。

「マナさん!」
初音がマナのもとに走ってくる。
「初音ちゃん」
マナも小走りに初音に向かって走る。
葉子の返事がない、ということは先ほどの放送の間に、彼女の身に何かがあったに他ならない。
だが、もしかしたら声が嗄れてしまい、休んでいるだけかもしれない。
そう、思って葉子の声が最後に聞こえた所を警戒しながら捜してみた。
しかし、彼女の姿も、血の痕も、争った痕跡も見つからなかった。


二人は途方に暮れた。
彼女たちは服が汚れるのも構わず、地面に座り込む。
疲労と無力感が彼女たちを苛む。
彰は見つからない。
葉子も行方不明。
そして、なにより、

耕一は死んだ。

今になって落ち着くと、その事実に体が震える。
実際にその死に様を見たわけではない。
だが、彰の言葉と、そしてなにより、浴びていた血が雄弁にそれを物語っていた。


藤井さんも、お姉ちゃんも、澤倉先輩も、霧島先生も、きよみさんも、藤田も、長瀬さんも、天野さんも、佳乃ちゃんも。
みんな、みんな死んでいった。
そして、耕一も……。
もう、何もかもが嫌になった。
一人でも多くの人を助けたい。一人でも多くの人と島から抜け出たい。
そんな、無邪気な絵空事を考えていた。だけど……
出会う人、出会う人、皆、死んでいく。
本当に、終わりがあるの?
すべての野が赤く染められ、白い骨の木が立ち並ぶまで続けられるの?
私が生きていても、他人を犠牲にしてぬくぬくと生き長らえているだけ。
そして、死んだ人を見て偽善的な悲しみをするだけ。
自分が生きている優越感に浸りながら。
『死んだ方がまし』そんな言葉を前に鼻でせせら笑ったことがあるけど。
確かに、あるのね。そんなことが。
自殺は根性なしの敗北者がするものだと思っていたけど……。

そうか、今の私みたいなのを指すんだ。

初音ちゃんに花を摘みに行くと言って少し離れる。
手には撃つことはないと思っていた銃。
適当に言い訳をして、初音ちゃんから借りた。
誰かが、頭を一発で撃ち抜けば痛みも感じず死ねると言っていた。
先に死んじゃうけど、初音ちゃん、ゴメンね。
でも、私が一緒にいると、初音ちゃんにも迷惑がかかると思うから。

セイフティーを外し、
こめかみに銃を押しつける。
そして、人差し指で引き金を……



ガァンッ!



えっ!
私はまだ、撃っていない。
そして、再び銃声が聞こえる。
そんなに、遠くではない。
もしかして……
私は初音ちゃんの所に駆け戻る。
初音ちゃんも聞いたようだ。緊張した面もちでこちらを見る。
今度は三連発の銃声が聞こえる。
その方向を確かめて、私たちは走った。


走るにつれ、何度か銃声が聞こえる。
私たちの緊張が増す。
そして、森を抜けた所に、それはあった。
倒れ伏した一人の男。
近づくにつれ、その正体が分かってくる。

柏木 耕一

初音の顔が泣きそうになる。いや、私も恐らく同じ顔だろう。
話しに聞いていても、実際に死体を見て改めて認識させられるのとは、別だ。

もし、神がいるとしたら、なんて残酷なのだろう。
銃声をあと十秒、いや五秒遅らせてくれたら、
また、こんな苦しみを味あわなくて済んだのに。

だけど、死体をこのまま放置して置くわけにはいかない。
私は運ぼうと思い、腕をつかんだ。
あたたかい?
腕の動脈をつかみ、そして耕一の口に耳を寄せる。
生きてる?
私は、軽く耕一の頬を叩く。
反応がない。
耕一の耳元で名前を呼ぶ。
返事はない。
まさか、と思い心臓に耳をつけてみるが防弾服が邪魔だった。
あせる気持ちを必死に抑えて、ボタンを外す。
そして、耳を胸に当てる。
命の鼓動。命の温もり。
それを感じたとき、自分の胸の奥が暖かくなった。
そう思ったとき、誰かが私の頭を撫でていた。
耕一だった。
いつもは頭を撫でられるのが嫌だったが、今は不思議と不快感はない。
むしろ、心地良い。
「やあ……、マナちゃん」
耕一は絞るように、そう言った。
「バカ! 私、心配したのよ! 本当に心配したのよ!」

私は耕一の胸の中で、泣いた。
嬉しくて、いつまでも泣いた。


【マナ:医者セット 鉤爪ロープ 銃身が少し曲がった散弾銃(残り一発) 聖のメス】
【初音:ダイナマイト ベレッタ ペンダント】
【耕一:中華キャノン ナイフ ニードルガン ベレッタ(彰が所持していたもの】

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