閉幕の足音


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 やってみるものだなと、つくづく思う。
 探し物、高槻の死体は、拍子抜けするくらいあっさりと見つけることができた。
 非常に嫌悪感を催すものだったが、いちいち嫌がっている暇はない。今はとても、時間が惜しいのだ。
 こうしている間にも、あの少年が何人もの人の命を奪っているかもしれない。
 どんなにちっぽけなことでも、自分に出来ることがあればやってみようと思う。
 かっこつけようとするわけではないが、その確かな自分の意志を、私は大事にしたかった。
(あった……)
 死体の懐から装置を取り出す。
 けど……。
(どう使えばいいのですか?)
 機械は苦手だった。


 それでも、あれこれと試行錯誤し、なんとか扱うことができた。
 完全とまではいかないが、装置を使われる前の段階まで能力は戻ったようである。
 手足を動かす。身体の隅々まで、感覚を馴染ませる。
 と、一つの疑問が私の頭に浮かんだ。
 果たしてこの装置は、『自分にだけ』効果を及ぼすものなのだろうかと。
 島全土をカバーするものなら、あの少年の能力も同時にアップさせてしまったのかもしれない。
(……)
 考えても答えは出ない。確かめる術はないのだ。
 一応装置も持って行くことにしよう。
 そして走り出す。街へ、学校へ。



 夕闇。
 赤と黒の混じる世界。
 そんな中、わたしはただ走っていた。
 傷だらけの身体で、背中には、同じく傷だらけのこいつを背負って。
 こいつの誘導した放送では、学校に人が集まるようにと呼びかけた。
 だけど、今こいつは気を失っている。
 それに、最早生き残り全員にとっての共通の敵であることも知られている。
 そんな状況で、学校に行く意味もないだろう。
 むしろ一刻も早くこの場から立ち去りたい。
 こいつを安全な場所で、休ませてあげたい。
 そのために、ただ走っていた。

 さっきから誰かに見られている気がする。
 前から、横から、後ろから、上から。
(上から?)
 空を見上げてみる。
 太陽は完全に沈んだわけではないけれど、もう星が見えていた。
 世界を包むグラデーションの中、自然に自然に溶け込んでいるように見えた。
 遠くから、ちっぽけな存在であるわたし達を見守ってくれる。
 ずっと後をつけている気配は、ひょっとしたらこの星々なのかもしれない。
 まるで、神様のように。


 気持ちが悪い。反吐が出そうな思いだ――
 カミサマなんて糞食らえだ。目の前に降りてきてみろ、殺してやる――
 私がこいつを守ってあげる。愛してあげる――
 そのためなら、何にだって――



 偶然。
 そう、その姿を見かけたのは偶然だった。
 少年を背負って夕闇の街を走る、郁未さんの姿。
 表情からは疲れきっているように見えた。
 だが、その瞳は死んでいない。
 何かの目的のために、決意を喪失していない、強い瞳。
 あの忌々しい施設で生活していたころと、何も変わってはいない。
 だけど、残念だ。
 あの少年は明らかに意識を失っているように見える。
 その彼を背負って歩いているのだ。郁未さんが彼の仲間であるのは間違いなかった。
 彼の目的を、彼女は知っているのだろうか。
 知っていようがいまいが、少年を殺さなければいけないことに変わりはない。
 説得は……おそらく無理だろう。
 だから――こうして、不意打ちのチャンスを狙っている。

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