遊戯


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 永遠の深みを誇る漆黒。
 その中心に檻が置かれている。
 檻を形作る鉄棒は折れ曲がり、扉もほぼひしゃげていた。
 だが中に閉じ込められるべき獣は、まだ外には出られていない。
――ポウ――
 そんなかすかな音と共に、暗闇の中に女性の姿が現れる。
 淡い光に照らし出されるその姿は、幻想的すら呼べるだろう。
「理性の檻……。開けてほしいか?」
「ナニモノダ……」
 片方は魂すら凍りつかせるような冷たい旋律。
 もう片方は全ての生物を戦慄させる恐怖の波動。
「余を知らぬのか? ふん…」
 不機嫌を全身で表しながら、獣の封印へと歩を進める。
「おお、みすぼらしくも狭い檻だのぉ。お主にお似合いよ」
――ガッ!!――
 鬼が檻の隙間からその野太い腕をふるう。
「貴様…」
 女の細腕を掴む。
「へし折ってやろうか……」
 ……。
 しばし静寂。
「手を……お離し」
――ガッ――
 たいした力など込めてるようには見えない。
 女は軽い動作で手を振り払う。そして、
「この……豚」
 言って口の端を歪める。
 檻の中の獣をあきらかに挑発する態度。
「次にお主は『俺を侮辱するか! この雌豚が!』と言う」
「俺を侮辱するか! この雌豚が! ……ハッ!?」
 すべては女のペース。
「はははっ! 単純よのう」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーー!!」
――ズガン!――
 咆哮と同時に、豪腕が扉にうちつけられる。
 だが壊れかけの檻はそれ以上ほころばない。
 この檻は『理性』なのだから。
「ブッ殺すと心の中で思ったなら! その時スデに行動は終わっていないとのぉ。
 檻の中ではそれもできまい。
 開けてやろうかと言っておるのだ。素直になれ」
 地上最強の生物。それを開放しようとしている。
「目的は何だ……」
 冷静さを取り戻しつつある鬼が問う。
 檻は今だに自分を縛る。
 脱出にはまだ時間がかかる。
 その時間が短縮されることに異議などないが……。
「なに…」
 女は気だるそうな態度でこたえる。
「盛り上らぬ遊戯はつまらんでな…」
 彼女を中心に氷の風が吹く。
 鬼は気づく。
――力と力の干渉――
――どこか遠くの場所で沸き上がった異質な力を、『俺』は感じ取っていた ――
――そしてそれを、自分の力で潰してみたいとも思った――
「力……」
 強大な力を思い出す。この女からも似た匂い。
――生命が散る間際の炎ほど美しいものはない――
――その命が強大な力を持てば持つ程、その輝きは映えるのだ――
「積極的な参加者は歓迎するが、なにか?」
「出せ…。その遊戯とやらにも参加してやろう…」
 双方の思惑が大筋合致する。
 
 神奈は漆黒の空に向けて片手をあげる。
 と同時に響き始める不協和音。
キィィィィィィィィィンッ――――――――――!
「殺せ。
 目の前でぬくぬくと生き残ろうとしている、偽善者を殺すのじゃ。
 生きる事の意義もしらない、小娘を」

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