激突!


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風に揺られて緩やかに波立つ、広大な緑の草原を掻き分けるように。
森から飛び出して来た何かが、疾走していた。
この島内で既に幾つか見られたものと同じ、オートバイである。

「はははは晴香!石避けてよ!おしり!痛い!痛いって!」
「うっさいわね!アンタ運転できないんだから我慢しなさいよ!」
「いいのよ!乙女はオートバイで爆走なんかしないの! ぅあ!痛たたっ!」

ときおり石を踏んで跳ね上がり、そのたびにクッションの無い後部に座った自称乙女が、大声で
騒ぎ立てている。
その手には、二本の刀とライフルが抱えられており、そして肩から掛けた袋の中には、ちょっと
変わった物が入っている。

「ふん、人間の手首持ち歩いてる乙女なんて、聞いた事無いわ」
「何言ってんのよ!晴香が平気でサクサク切ってたんじゃない!
 あんたも一個は持つのよ!」
「じゃあ七瀬が二個持つのね」
「ええっ!?ず、ずるい!
 …てゆうか晴香ぁ、手首ってさ…”個”で数えて、いいのかしら?」
「……アンタねぇ…そんなもん、どうでもいいわよ…」



は…はあい、乙女の七瀬よ。
ご機嫌いかが?
あたしは顎がガクガクして、オシリがズキズキ痛むけど、概ねご機嫌よ。

高槻の死体を発見して、右手首を三個(?)回収。
読み取る機械のセンサーが右手の方にあったから、右手首全部、つまり三人分取ってきたわけよ。
まあ……そりゃ気持ち悪いんだけど…脱出のために、やらなきゃ仕方ないものね。
ついでと言っちゃなんだけど、誰も気がつかなかったらしいオモチャみたいなライフルも頂戴したわ。

それから、もう解ってると思うけど。
あたし達、灯台にあったオートバイを使って移動中なの。
幸い晴香が運転できたので、あたしは荷台に乗っかって荷物持ちをしてるのよ…でも、これってば。
「…まるっきり、ド田舎の珍走団ね」
「七瀬、アンタが言うんじゃないわよ、アンタが」

そう、後部座席で二本の刀を携えて睨みを利かせている様は…珍走族そのもの。
運転手がいかにもレディースのお姉さまみたいな強面とくれば、都会の渋滞だって道を開けるわ。
「ちょっと! いかにもレディースってどういうことよ!」
「そのまんまじゃない! あたしと違って、あんたは黙ってても顔が怖いのよ!」
「何言ってんのよ!
 アンタだって髪切ったせいで乙女チックな化けの皮なんて、とうの昔に剥がれてんのよ!」
「ば、ばばば化けの皮ですってええええ!
 きいいいいいいい!」
「うわわっ、ごめん!謝るから!
 な、七瀬っ!暴れないでっ!危ないって-----!」



「あのさ…」
「……」
「…聞いてます?」
「……(こくこく)」
「えーと…」
「……」

あのさぁ〜、神サマ〜。
さっきから、何度も言ってんじゃん。
俺、会話の成立しない人、苦手なんだってばYO!

ん?ああ、失敬。
時には島内随一のジェントルメン北川と言えども、我を失う事もある、と言うわけでございます。
そう、私北川は、ただいま岩場に向けて草原を横断中。
旅の道連れは、来栖川芹香嬢。
この芹香嬢、結界とやらを破壊するために往人さんを探して、各地を放浪していたらしいのですが、
実際に会ってみると単なる一発芸の役立たずだったらしく、いたく落胆してらっしゃるそうです……
……って目茶クチ悪いじゃん、この人!?

「……(ふるふる)」
「は?勝手に捏造するのは良くありません?
 だって、言ったじゃないですか!?
「……」
「いやいや、あの小屋での蹴り!
 輝かんばかりのキレ!ええもう、今でも忘れませんよ!」
「……(ふるふる)」
「…は?覚えてらっしゃらない? そんな覚えは無い、と? 何、言ってるんですか!
 確かにこう、その見事なおみ足がひゅっと風を切って、そのとき見えた下着の色は間違いなく白------」

 『暴れないでっ!危ないって-----!』

 ドッキャアアアアアアァァァァァン!!



「あいたたた……。
 は…晴香っ!?大丈夫!?」
「いっつー…やっちゃった……」
「……」

 ああ、神様…光が見えます…
 芹香さんの下着の色を公開するのは、地獄に落ちるべき罪なのでしょうか?

「あーあ、バイク壊れちゃったわね」
「ここじゃ修理もままならないしねー…って七瀬、この人…」

 …あ、ちょっと遅い気がしますが、救いの手が回ってきそうです。
 バイク以下ってのが、かなり傷付きますが、贅沢は言えません。

「……(ぺこり)」
「芹香さん、しばらくね」
「なんだ、一瞬見えた人影は、芹香さんだったの」

 …コイツら、オオボケです。
 どう考えたって、バイクに吹き飛ばされた人間の方が目立つと思うのです。

「……(ふるふる)」
「違うの?」
「誰?…って、ああ!」

 …あ、かなり遅い気がしますが、救いの手が回ってきそうです。
 どう考えても、あの物静かな芹香さんより、バイクの下で苦しげに呻いている私北川の方が
 目立つと思うのです。

「どうしたのよ七瀬!?突然叫んだりして、びっくりするじゃない!」
「晴香!手首!潰れてないかな!?」

 …手首ですか。
 私北川は、バイクどころか手首以下ですか。そうですか。
 だいたい手首ってなんですか?
 倒した相手の手首をウォートロフィーにでもしてやがるですか、この人たちは?
 現代に蘇る首狩り族の親戚ですか。そうですか。
 すると私北川の手首も貞操の危機ですか?

「ふー…全部、無事なようね」
「…約一名、脳味噌が無事じゃないのが居るみたいだけどね」

 …それって誰ですか? 
 まあ、この際どうでもいいから、七瀬さん。
 気がついてるなら、このバイクどかしてくれませんかね?


【晴香 刀、ワルサーP38、高槻の手首(?)ひとつ所持】
【七瀬 毒刀、手榴弾三個、レーザーポインター、瑞佳のリボン、ステアーAUG
高槻の手首(?)二つ所持】
【北川 利き腕人差し指骨折。 CD1/4、CD2/4、CD無印、M4カービン所持】
【芹香 セイカクハンテンダケ二個、消毒液&包帯所持】

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