そのこころは
近づいていた光点――北川潤がこの施設内に入ったのを確認した。
ワシはメインモニターを入り口近くの監視カメラからの映像に切り替えた。
そこでワシは信じられない物を目にした!
「な、なんじゃこりゃーーーーーーー!!!!!」
「ふ、ふみゅ!?」
「みゅ!?」
どうやら一人と思われていた侵入者が実は二人だったのじゃ。
しかも、北川の坊主の隣にいるのは芹香嬢ちゃんに間違いなかった。
詠美嬢ちゃん達もそのことに気付いたらしい。
「おい、詠美さん。あれは何人に見える?」
「ふみゅ?どうみてもふたりだけど」
やはり嬢ちゃんにもそう見えるか。
と言うことはワシの見間違いでは無い。
っちゅーことは………幽霊さん、か。
やはり成仏できん霊がうようよしてるんじゃなぁ。
ワシが感慨深げに考えている横で詠美が呑気な声をあげた。
「な〜んだ、この人もわたしたちと同じだったんだ」
うむうむ、嬢ちゃん達と同じだったんじゃな。
「てっきり、この北川って人が芹香さんを殺したのかと思ったけど爆弾を吐いただけだったのね」
そうそう、爆弾を吐いただけ………。
「何ですとーーーーー!!!!」
「ふみゅ!?なによさっきから大きな声出して〜」
「おい!嬢ちゃん!今何と言いましたか!?」
「だ、だから、爆弾を吐いただけだって」
「………え〜と、するってーと、詠美も繭も死んでたんじゃなくて爆弾を体外に出しただけじゃと?」
「そうよ」
「な〜んじゃ、ワシはてっきり」
詠美嬢ちゃん達が幽霊だと思っておった――、とは言えんな。
「てっきり何よ?」
「いや、何でもない」
「ふみゅ〜ん、ヘンなの〜」
「お嬢ちゃんにだけは言われたくないわ」
「どういう意味よ〜!」
「言葉通りじゃ」
そう言えば爆弾の操作施設が無くなっておったの。
普通だったら爆弾体外除去の可能性を考えつくはずじゃが。
ふぅ、全く柔軟な思考というのも考え物じゃな。
「ん?」
ワシが思考にふけっている間に詠美嬢ちゃんがドアの所に移動していた。
「どうしたんじゃ?詠美嬢。トイレか?」
「違うわよ!」
「それじゃどこに行く気じゃ?」
「何言ってるのよ。あの二人を迎えにいくのよ」
「はい?」
ワシは信じられない言葉を聞いた。
「あ〜、お嬢ちゃん。どうやら集音マイクの調子がおかしいようじゃ。もう一度言ってくれんか」
「だから〜、あの二人を迎えに行くって言ってるのよ。早くCDそろえないといけないでしょ」
そう言って詠美が部屋から出ていこうとした。
「ちょっと待った〜!」
「もう、何よ!さっきからうるさいわね〜!」
「何を言うとるんじゃ!外に居る坊主が安全な奴じゃと言う保証も無しに出ていってどうする!」
思わず声を荒げてしまった。
「アンタこそ何言ってるのよ。北川って奴は芹香さんを殺してないんでしょ?だったら安全じゃないのよ」
呆れたような口調で詠美が答える。
ワシは詠美嬢のその言葉に絶句してしまった。
「あ」
「あ?」
「阿呆か、お前は!」
「ふ、ふみゅ〜ん!誰がアホよ!」
「お前に決まっとるじゃろうが!いい加減にそのお気楽思考をやめんかい!」
「ふみゅ〜ん!誰がお気楽よ!」
「お嬢!物事を簡単に考えるんじゃない!」
「バカにして〜!」
「黙って聞け!いいか?今この場でお嬢を守ってくれる人は一人もおらんのじゃぞ」
「ふ、ふみゅ〜ん」
「これまではお嬢は誰かに守られて生き残ってきたのじゃろう。けど今はお嬢が繭達を守るべき立場じゃろうが!」
「………」
「詠美嬢の軽率な行動はお嬢だけじゃなく繭まで危険にさらすことになるんじゃぞ!」
ワシはそこまで言ってから詠美が涙を浮かべているのに気付いた。
「………あ〜、スマン、詠美。言い過ぎた」
「………」
「でもな、詠美。お前の行動はお前の命だけじゃなく他の人にまで影響すると言うことを考えて行動せんといかんぞ」
詠美がワシに背を向け台所の方に走っていった。
「おい、ロボット」
「は、はい〜」
ワシはHM-12に声をかけた。
「スマンがお前、詠美嬢を慰めてきてくれんか。ワシには無理じゃ」
「は、はい。分かりました〜」
ロボットはすぐさま詠美の後を追っていった。
ハァ、ワシは何をしとるんじゃろうなぁ。
ふとそんなことを考える。
どう考えてもありゃ管理者としての行動では無いのう。
参加者が殺し合おうがどうしようがワシには関係ない。
っちゅーか殺し合わせないといけないのに止めてどうするんじゃ!
こりゃ絶対どっかおかしいぞ。
やっぱりバグだな、こりゃ。
だ〜!もう考えるのやめ!
今はひとまず目の前の事に集中、集中。
施設内のカメラからの映像で北川達の居場所を映し出す。
ふむ、どうやら施設内の見取り図があるところにいるようじゃな。
っちゅーことはすぐにここまで来るじゃろうな。
さ〜て、どうしたもんかの………。
まぁ、ワシはあくまで参加者には手を出せないしなぁ。
ひとまず詠美嬢の判断待ちかね。
どうなることやら。
ま、ワシは一応忠告したし、後はどう判断しようとそれは詠美の自由だしな。
好きにさせるさ。
【北川 芹香 施設内に侵入】