少女の決意


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 一体どれほどの間、観鈴は立ち尽くしていただろう。
 その出来事は、あまりにも唐突だった。
『観鈴・・・・・』
 その声と共に、観鈴に抱きしめられていた人形が、再び光り出した。
『悲しむな・・・、お前のそんな顔を見るために、俺はお前を守ったんじゃない・・・』
 そう、あまりに突然、
 観鈴の耳に入ってきたのは、愛しい人の声。
「ゆ・・往人さん!」
『ああ、そうだ、俺だ・・』
 やがて、雨で良く見えない観鈴の視界に、うっすらと人の姿が現れる。
「良かった・・生きてたんだね・・・」
 雨でよく見えないが、あの見慣れた服装は確かに往人そのものだ。
 ああ、嬉しい。
 まだ大切な人は、生きていた。
 そんなことを思っていた矢先。
『悪い・・・もう行かなきゃ行けねぇんだ・・』
 往人が、微笑む。
 ただ、その笑顔は少女にはあまりにも残酷で、
「いや!いや!いや!いや!いや!いや!」
 観鈴があらんばかりの声を上げ、大粒の涙を流す。
「お願い!行かないでよ往人さん!お母さんも死んじゃって、往人さんまでいなくなったら私、何もできなくなっちゃうよ!私だけが生きてたって、ちっとも嬉しくないよ!
 どうして!ねぇ!なんで何も答えてくれないの!ねぇ!ねぇ!お願いだから・・・・・」
 少女は泣く、溢れる涙を、拭うことなく。
「行かないでよおおおおおおおおおおおっ!!」
 だがその願いはかなわない、現実は残酷で、観鈴の想いは、届かない。
 それは彼女にも、解っているはずなのに、
 どうしてなのだろうか、涙が、止まることはなかった。
 雨が、勢いを増す。



 パシン!
 ふいに、観鈴は自分の頬に軽い痛みを感じた。
 目の前には、悲しい顔をした自分の大好きな人。
『俺を困らせるな・・・・・。いいか?よく聞くんだ・・』
 まるで子供に悟らせるかのように、ゆっくりと往人が話す。
『俺は、いつもおまえの側にいる、
 お前が、
 泣いている時も、
 嬉しい時も、
 悲しい時も、
 寂しい時も、
 そして、笑っている時も、
 ずっと、ずっと一緒なんだ。
 俺は、お前と一緒なんだ』
 そう言いながら、往人が二人の間に落ちていた人形を拾い上げ、観鈴に手渡す。
『だから悲しい顔を、見せないでくれ。それが、俺のたったひとつの願いなんだ。
 しっかり前を向いて、生きてくれ・・・・』
 それは、悲痛なまでの彼の願い。
 死してなお、観鈴を助けるために、彼が望んだ、願い。
「・・・・・・・・」
 それは、彼女に今、確かに伝わり――、
「往人さん・・・・わかったよ・・・」
 今度は観鈴が、往人に微笑む。
「わたし・・がんばる!往人さんの言うように、しっかり前を向いて、一生懸命生きる!」
『そうだ・・・それでいい・・・。
 大丈夫だ・・・お前は『強い子』なんだからな・・・』
「うん、神尾ちん、強い子。にはは」
 でも、どうしてだろう。
 どうしても笑いながら、私の涙はいつまでも流れ続けるんだろう。
 ああ、意識が、混濁していく。
 でも、最後に、
 もう、一言だけ。
「ばいばい・・往人さん」
『ああ・・・、またな・・・、観鈴』
 最後の往人の言葉が聞こえた時、
 観鈴の意識は、ゆっくりと闇に落ちていった。



「う・・うん・・・」
 降り続く雨の中、観鈴が目を開ける。
(今のは・・・・夢?・・・・・)
 なぜだろう、記憶がはっきりとしない。
 自分が夢ではないと覚えているのは人形が光だした所までだ。
(夢でも・・・いい!)
 例え夢でも、往人は自分にはっきりと言ってくれたのだ。
 生きて、欲しいと。
 そして、空を見上げ、いまだ降り続ける雨を浴びながら、
「往人さん、私、がんばるから! 
 絶対生き残ってみせるから!
 だから・・・ずっと、見守っててね!」
 決意をしっかりと言葉に出して叫んだ時、なぜか本当に、
 往人が見ててくれるような気が、観鈴にはした。

(まずは、北川さんに会おう、確かあの人、脱出の方法を考えてるって言ってたよね)
 残された人物探知機を雨に濡れないように動かして、観鈴はこの島の生き残りで面識が
 唯一あった北川を頼る事にした。
(絶対に生き残ろう。それが、往人さんが命を投げうってまで私に望んだ、願いだから。
 だから、今なら・・・)
 と、観鈴は足元にあった散弾銃(べネリM3ショットガン)を手にとって肩に掛け、
(今なら・・撃てる!もう甘い事なんか絶対に言わない!)
 決意と共に観鈴は、歩き出す。
 その瞳に、確かな意志を受け継ぎ、
 往人の形見である人形は、更に輝きを増していた。


【神尾観鈴 施設へ】
【観鈴の持ち物 シグ・ザウェルショート9mm ベレッタM92F
        べネリM3ショットガン G3A3アサルトライフル
        人物探知機 往人の人形 投げナイフ×2】

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