カウントダウン
フランクは銃も持たずに森をふらふらしていた。
今思うと以前の状態の方がおかしかったように思える。
今現在この島で生き残っている人間を皆殺しにして少年を殺す。
このことしか頭に浮かばない今の方がずっと頭がすっきりしていて心地良い。
ふらふらとさ迷っていると前方の木々の間に人影がふたつ。
ふふ、祐介、お前が呼び寄せてくれたんだね。
こいつらがお前に捧げる最初の生け贄だよ。
島の連中を皆殺しにして祐介の墓標を建ててあげるよ。
電波を発動させようと精神を集中させる。
「ふひゃひゃひゃひゃ!!電波、電波、電波ぁぁ!」
叫び声を上げながら精神を集中させ無駄な徒労を繰り返す。
最初から電波を会得などしていないのだから明らかに無駄だ。
くっくっく、奴らが苦しんでいるのが手に取るように分かる。
止めろ?止めてなんぞやらんぞ!祐介の苦しみはその程度では
無かったんだからな。
フランクの脳には、現在その瞳に映っている近付いてくるマナ達の
姿とは別に、耕一とマナが頭を押さえて苦しんでいるのが映っている。
ひゃあはははぁぁ!!哄笑が辺りに響く。
死ね!もう死んでしまえ!頭の中でマナ達が倒れていく。
祐介、仇を取ったよ。喜んでくれ。妄想の中の祐介に声をかける。
フランクは死体を確認し、長瀬祐介の墓標を作るために近寄っていく。
こちらに攻撃してくる様子は感じられなかったが明らかにおかしな様子の
人影に二人は近寄れなかった。が、顔が確認できるところまで近付いてきた
フランクを見てマナが駆け寄ろうとする。それを見た耕一はマナを抱きとめる。
「マナちゃん危ないよ。俺達の敵かもしれないだろ?
それに明らかに様子がおかしいよ」
マナは耕一を見上げて語りかける。
「前に知り合いのお姉ちゃんと一緒に行った喫茶店のおじさんで
知ってる人なんだ。助けてあげたいよ。
あんな人じゃなかったもん。何かあったんだよ」
言ったマナは耕一の手を振り払ってフランクの方へ駆けていく。
それを見た耕一も慌ててそれを追いかける。
フランクの瞳にマナ達の姿が映る。
脳が彼女達の姿を認識した。
「近寄るなぁ!お前等は死んだはずだぁ!
俺は、俺は祐介の仇を取るまで死ぬわけにはいかないんだぁ」
フランクは開いていないままの鋏を振り回して叫ぶ。
近寄ってきたマナと耕一はフランクを静止しようとしたがフランクは止まらない。
マナ達はフランクを止めるために身体を掴もうと突き出した手を何箇所か
切り傷をつけられてしまう。その鋏は護身用にとフランクが銃を捨てて
手にした太田香奈子(010)の咽に刺さっていた鋏だ。
───約30分で死んでしまう毒付きの。
フランクは気付いていない。自分が目的をすでに達していることを。
フランクはしばらく鋏を振りまわしてから走り去ってしまった。
マナと耕一は追い掛けることもせずにその姿を見送る。
追いかけようとしたマナの肩を耕一が掴んで引き止めているためだ。
「今は梓を探すことが先決だ。
あの人のことも気になるけどまずは梓だ。あいつ様子が変だったし」
耕一はマナにそう語り掛けてマナの手を掴んで走り出した。
耕一の手の暖かさにマナは思わずどきりとする。
このまま梓さんがみつからなければいいな、そんなとこまで考える。
自分達の命があと約30分しか無いことにも気付かずに。
【耕一 マナ 毒をなんとかしないと約30分の命 フランク 何処かへ】