沸き上がる記憶


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それは、突然始った。
「ぁぐっ!ああああああああああぁぁぁっ・・・!!」
突如頭を襲う原因不明の頭痛に、思わずその場に倒れこむ。
「なんだ?おいっ!!どうしたっ!?」
「ねぇ?大丈夫?」
周囲の声は既に届いていない。
かわりに、自分以外の声が頭の中で乱反射している。
心が、心に蝕まれていく感じ。
頭の中に突如生まれた『それ』は人の心を引裂きながらどんどん膨れ上がっていく。
「うあああああぁぁぁぁぁぁっ・・・」
やがて痛みは限界を超え、今度は意識が妙にハッキリとしてくる。
それに伴い混乱した記憶の断片が少しずつ形になる。

――ココハ・・・?――私ハ・・・?――何ヲ・・・?――イツ・・・?

・・・―シマ・・・―・・・クロ――・・・ショウジョ―・・・―ナカマ・・・――ジュウセイ・・・

―アメ・・・・・・―カミナリ・・・―・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ズットイッショ・・・

一つのキーワードをきっかけに、頭にかかった霧が収束していく

・・・一緒?・・・誰ト?・・・何処デ?

・・・頭ガイタ い・・・思イ出セ ない・・・

・・・思イ出サナ く チャ い ケ ないのに・・・

・・・一緒ニ いなくちゃ イケ ないのに・・・

・・・・・・行カナ きゃ・・・・・・行かなければ・・・・・・

やがて一つの使命感となって心を塗り潰していった。



「行かなければ・・・・・・」
呟きながら起き上がる。
「行くって・・・おいっ!どこへ行くんだよっ!?おいっ!!」
はっきりしない意識のまま、それでも歩き出そうとする。
「・・・どこに行く気か知らないけど・・・
どうやってここから出るつもり?」
その言葉にハッとし、正面の「それ」を正視する。
急速に意識が覚醒していくと同時に全身の血の気が引いていく。
――それ―― 鋼鉄の扉が、ここからの唯一の出口を固く塞いでいた。
扉を開閉するためのスイッチがあるにはあるが、
ご丁寧にもカバー付きの上にパスワードまで掛けられているらしい。
カバーをどうにかする自信も無ければ
後の人達が止めに来る前にパスワードを解除する自信も無い。
ほぼ確実に阻止されて、当然警戒されるだろう。
そうしたら暫くここを出るチャンスなんかこないにちがいない。

「・・・行かなくては・・・行かなければいけないのにっ!」
「さっきから、そんな調子で一体どこへ行こうって言うんだよ?」
「・・・・・・・・・分らない」
「ハ?」
「分らないけど・・・思い出せないけど・・・
それでも、行かなくてはいけない事は・・・確かなんです」
「・・・・・・・・・」
「大切な事なのに・・・忘れてはいけないハズなのに・・・なのに、何故・・・」



(・・・ずっと一緒・・・)
頭の隅にこびりついた言葉。
何時言ったのかも、誰に向けて言ったのかも分らない。
ましてや、『誰が』言ったのかも・・・。
なのにそれが、命に代えても守らなければならない盟約のように
重く心にのしかかるのだ。
「くっ・・・・・・」
思い出せない苛立ちか、何もできない無力さからか、
そう一言呟いてそのまま地面にへたり込んでしまった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

――ピッ・・・ピッ・・・
「・・・・・・!?」
頭上から聞える電子音に頭を上げる。
そこには、スイッチパネルを操作する少女の姿・・・
「お、お、お嬢ちゃんっ!何をやっておるんじゃっ!?」
背後からの叫び声を気にすることなく少女は全てのパスワードを入力し、そして・・・
――ピッ!・・・ウィィィィン!
扉が・・・開いた。

「あ・・・あなた・・・」
彼女に、私達の言葉が分るはずが無い。
「みゅう」
私にも、今の彼女の言葉はわからない・・・けれど・・・それは確かに・・・
「いってらっしゃい」
・・・そう聞えたのだ。
「・・・・・・ありがとう
・・・・・・・・・そして、さようなら」
礼を言い、正面へと向き直る。
決心はとうの昔についている。
今まで一緒に戦ってきたみんなには悪いけど、私は・・・

「じゃあ、行きましょうか」
「そいつはトロいからな、運んでってやれよ」
「失礼ね。・・・でも、まあ、お願いするわね」
私は、予想外の言葉にあっけに取られていた。
突然わけのわからない事を言いだして目的地も告げずに飛び出そうとする私に
二人はさも当然のごとくついてくると言っているのだ。
「何で・・・二人とも・・・?もうここには戻れないかもしれないのに・・・」
それは、本当だ。
「一緒に」・・・おそらくこれは一生一緒にいると言う事だろう。
そうなれば二度とここには戻ってこないかもしれない。
「あら、私をこんなお人よしにしたのはあなたなのよ?」
「今更細かい事言いっこなしだ。それに・・・のんびりしている時間も無いようだぜ?」
そういって台所の入口を指す。
そこには丁度、緑の髪の少女が何か言いながらこちらへ向ってくるところだった。
おそらく扉を閉めるつもりだろう。
選択の余地はないようだ。
いや、初めから答は決っていたのかもしれない。
「・・・分ったよ」
みんなして頷きあう。

少女の指がスイッチに向って延びる。

「行こうっ!!」

――ピッ!ウィィ・・・
閉り始めた扉をすんでの所ですり抜ける。
もう、後戻りはできない。


(行こう、再び外の世界へ
行こう!一緒にいると言ったあの面影の下へ!!)


【そら ぴろ ポチ 微かな記憶を頼りに再び戦場へ】

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