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Tomorrow


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観月マナ(088)は川のほとりにいた。
(あれ……?)
目が覚めて、周りを見渡したらそうだった。

次に自分の体を見る。怪我なんてない。傷どころか泥や血で汚れた後すらない。
川の流れを鏡にして自分の顔を映してみる。
流れに押されて、写った顔がグニャリと歪んだ。
私が置かれているあの島にはそんな歪みが似合ってるかも、なんて思ったけれど。
その流れの向こうの私はすごく綺麗で…(っていってもナルシストじゃないわよ)
やっぱり、汚れ一つなかった。
「……夢?」

「そうだな。これは、夢かもしれんな……」
「だ、誰…?」
聞かなくても分かってた。その、短い間だったけど、絶対に忘れることのない声。
「久しぶりだな、マナ君」
「せ、センセイ!」
私は、一心不乱にその大きな体へと飛び込んだ。
「こ、こら、いきなり飛び掛ってくるな、びっくりするじゃないか」
「ほ、本当にセンセイだ…」

ひとしきり、その胸の温かみを感じた後、もう一度、周りを見渡す。
ホントは、ずっとそうしていたかったけど。
「センセイ、ここは……?」
「川のほとりだな」
「そんなことは分かってる……ます」
「じゃあ、どこだと思うんだ?」
反対に、返された。
「川のほとり……」
「だな。言葉通り。私の言うことに間違いはない」
断言された。よく状況が掴めないけど、今日の霧島センセイは強気だった。

「センセイ、生きてたんですか?私は…」
「私以外にもいるぞ。ここにはな」
えっ…?
「やほー、マナちゃんだ! よかったぁ」
「か、佳乃ちゃん……!!」
センセイの後ろに隠れて、佳乃ちゃんがいた。
「そんな…どうして……?」
「私がいるのだ、佳乃がいても不思議ではないだろう?」
「いや、そうだけど…」
疑問に思いながらも、喜びの表情は隠せない。
「良かった…本当に…私、てっきり……佳乃ちゃんが……」

先生や、佳乃ちゃんとの思い出。あの悲しかった思いは忘れたことなんてなかった。
だから、すごく嬉しかった。
「夢だったのかな……?ひどく、辛い夢」
「そうか。悲しい夢でも見ていたのか?残念ながら精神的なものは専門外だが…」
「いいの、病気じゃないから」
涙を拭って。

私の辛いあの日々は、終わったんだ……

「情けないチビちゃんにもう一回会えるなんてね〜」
「そ、そんな事言ったら可哀相だよ…」
私は、また懐かしい声との再会を果たした。
それ程時間は経っていないのに、すごく懐かしい。
「きよみさん…初音ちゃん…」


もう会えないと思っていた、大切な人達との再会。
もう一度、夢見て止まなかったその再会。
たぶん、この島に来て、一番の微笑みだったと思う。
きよみさんのその憎まれ口さえも、耳に心地の良い響き。

そういえば…この島に来てからって思ったよね、私。

「センセイ、ここはどこなんですか!?」
「川のほとりだ」
「さっきも聞いた! もっとグローバルな意味でのこと」
そう、何故か違和感を感じる。
幸せなこの状況に不満なんてないと思うけど、胸の奥にあるその何か。
「あの島じゃないんですか?」
あの殺戮の島に、この風景は不釣合いだと、我ながら不謹慎だけど、そうも思う。
「……。ふむ…」
先生が、腕を組んで考える仕草をする。
「あの島からは遠く離れた場所だ。…いろんな意味でな」
いろんな意味?ちょっと良く分からなかったけど、さらに質問する。
「みんな、助かったの?」
「……今も戦っている者がいるかもしれないな」
「……」
その先生の声に、私はただ黙った。

「マナちゃん、ここにいれば安全だよ。あとは、帰るだけだね」
「初音ちゃん…」
お家に帰る。帰っても誰もいない寂しい家。
それでも、あの島でずっと求めていたもの。
だけど……
「やっぱり、なにか足りないの」
私は、言った。

ここは幸せなのに…?私が求めていた、たいくつでつまらない、だけど幸せな日々なのに…?

「うん…辛かったけど、忘れちゃいけないって思い出が、あるから…」
自分に言い聞かせるように、言葉。



  ――さっき、君は『死んでも人殺しにはなれない』と言ったろう。私もそうだ。
    私は医者だ。先ほどの観月くんのように怪我をして、
    あるいは戦闘で傷ついた人間を見つけたら治療する義務がある。
    誰かが私に襲い掛かってきたとしたら、殴り倒してでも説得する。
    例え、その行動が命取りになっても、だ。

  ――あなたは、その子よりも弱いのよ。 肉親を失った子でも、生きようと決めたのね。
    それでもあなたは、死ぬの?

  ――心の中でずっと叫んでた…マナちゃんを傷つけていく私を、私は止められなかった。
    私がやったことは…許されないかもしれないけど…
    本当は、死んじゃった方がいいのかもしれないけど…
    私、お姉ちゃん達の分まで生きたい。だから…生きていてもいいかな?

  ――彰お兄ちゃん、自分が何を言ってるかわからないのっ!?
    本当にもう狂っちゃってるんだね!? 戻れないんだね!?
    鬼の血なんてあげなければよかったよ……それでもお兄ちゃんが好きだったからっ!!

  ――忘れないでほしい。君がいたから助かった人、救われた人もいっぱいいたってことを。



私は、いろんな人に支えられて、長い道をただひた走っていた。
私にとっての辛い辛い旅の終わりはこうだったらいいって思うけど。
もう叶うことはないって分かってても、そう思ってしまうけど。

私はまだ、帰れない。
戦ってる人、生きて帰ろうと前を向いて歩く人、
そして、耕一さんをはじめ、出会ったすべての人達と。

「ここはまだ、私のゴールじゃないから」

そう言ったら、センセイやきよみさん達がみんな、笑った気がした。

「ひとつだけいいおチビちゃん? ……すべてが夢だったら、いいとは思わない?」
「思わないよ。だって―――――」
「言わなくていいわ。たぶん、私の思ってる通りの答えだと思うから。憎たらしいけどね」
「きよみさん……」

世界が、遠のいて、いく。
「佳乃ちゃん…初音ちゃん、きよみさん…センセイ…私――」
「そんな顔をするな。すべてが…あの悪夢が夢であったのなら、
 私達が出会うことはなかった…そう思えば気楽だろう?」
「センセイ……」
「何事も、前向きに、な」

世界が途切れた――――――――

私が、永遠であったならばいいと思った、その幸せな日々が。



目が覚めたら、いつもの悪夢の光景だった。
たった数日だったけど、長く感じるその辛い日々。
周りを見渡せば、横に食料が置いてあるだけで、誰もいない。

「そうだ、変な、だけど親切な男の人に助けられて、また眠っちゃったんだ」

さっきのは夢だったんだろうか。
夢だとしても、はっきりと覚えているその言葉。
(どの位の時間が経ったんだろう…?)
あたりは、すっかり夜に染まっていた。
耕一さんが迎えに来た気配は、ない。

眠ったせいだろうか。センセイ達に勇気付けてもらったからだろうか。
妙にすっきりしていた。
梓さんへの憎しみも、薄らいでいた。
正確には、嫉妬は強くなっている気もするけれど。
(私、思ってたより独占欲強かったんだね…)
もしかしたら、梓さんとは、戦うことになるかもしれない。

――――そうじゃ、それでよい。それでこそ「人間」であろ……

梓さんと別れた時に聞こえた謎の声が脳裏に蘇る。
私の心が創り出した声だったのか、それとも他の誰かの声だったのか、それは分からないけど。
今はそんなことはないって、はっきりと言える。

梓さんとのその戦いは、帰ってから幾らでもすればいい。
帰れば、笑いながら、怒りながら、それができるんだから。
さっきまでの私の黒い思いに、苦笑いした。



頭だけじゃない、体だけじゃない。心が軽くなったと思う。
何度も絶望して、あきらめたこともあったけど、その度に勇気づけてくれた、友達。
今も、心で勇気を与えてくれるから。


――すべてが夢だったら、いいとは思わない?
思わないよ。だって…

こんな島でも、大切な人達と出会えて良かったと思ったのは嘘じゃないから。


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