川、消えゆくもの


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「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・へ へへへ 俺が本物だぁ・・・・・・」
呟いて、男は歩き出す。
まず、この妙な川から離れなきゃならん。ふざけやがって、クソ。
ここがどこなのか知らんが俺を捨てやがった「ヤツラ」もきっといるはずだ。探してやる。探して、コロス。
・・・・・・俺の偽者のように。
高槻は俺だ。さっき俺が殺した中に本物がいたんだろうとなんだろうと今ここに立っている俺が本物だ。
・・・・・・死人にくちなし ってな。ギャハハハハ。

――――――彼は、気づいたろうか。
その発想は、自分が偽者だと認めている事にもなる、と。


まさか奴もいたとはな。クソ。服が破れたじゃねーか。
俺のほうが先に奴に気づいたのは運がよかった。初撃さえかわせれば逃げられる。
チカラもここではうまく使えねえようだな、ガキ。

・・・・・・で、ここは何処なんだ。さっきから足元がおぼつかない。
あっちのほうに行けば川だ・・・・・・いまさら戻る気はねえ。クソ。ヤツラめ。見つけて――――――


消失感。それに気づいたときには、彼にとっての「すべて」は終わっていたと言える。
(なんだよ・・・・・・俺が・・・・・・消えていく?ふざけるな!クソ。ヤツラを――――)
思いは、言葉となって。
「ふざけるんじゃねえ!まだだ、まだ――――」
(まだ、何だというのだ。)
頭の中で、答える声があった。

「ああ?なんだ?」
(・・・・・・振り分けるもの。)
「は?」
(おまえは地獄行きだ。おまえに言う事は、それだけだ。)
「ちょ、ちょっと待て。何故俺が地獄行きなんだ。地獄に送るならまずヤツラを・・・・・・
いや、違うな。あんな理不尽な死に方があってたまるか!俺を生き返らせやがれ!」
(できん相談だ。それに、一人の想い人もいないおまえが転生したところでためにはならん)

「ふざけるな!俺が地獄行き!?俺を送るならもっと他にも送らくちゃならんだろ!?
巳間とか、よぉ。どうなんだ!?」
(そもそも地獄などというところに逝く者は滅多にいない。しかしどういうわけか
先程からそういうものばかりが上がってくる。中には自分で望むものまでいるのだ。)


(そもそも地獄という所には一片の慈悲もあってはならん。だから想い人などとここに来た場合は
地獄行きなどと言う事はありえんのだ。想いというのは不可解なものでな。
どんな場所であろうと、その者と寄り添えるなら何処であろうと楽園である――そう考える輩を多く
輩出するのが想いと言う物だ。そんなものを地獄に送ってしまっては地獄が地獄たり得ない。
そう言う輩は転生させてしまうのだ。それがどんな罪人であろうとな。)
「転生ってな生まれ変わるってことか?」
(いかにも。人はそうして本来終わる事の無い輪廻を――――)
「ごたくはいいから俺を生き返らせろ!」
(だから、おまえは地獄逝きなのだというに――――)

追いこみ、ともとれる消失感の加速。観念したのか、高槻は怒鳴りたてる事を止めた。
「一つだけ答えろ。」
(何だ)
「さっき俺がここで殺したヤツラ・・・・・・ここがあの世だ、というならヤツラはどうなる。
地獄逝きか?転生するのか?」
(消失だ。もはや何にもなりえる事の無い――――)
「・・・・・・ケッ そっちのほうが随分と――――」
楽そうじゃねえか。
(一つ述べておくと。)
「あ?」
(おまえは複製品だ。)

そのすべてが空しくもあった男、高槻はこうして消滅した。
地獄とは、その者の考えるもっとも凄まじい重苦を課す所。
高槻に課せられる罰は、いかなるものか――――――
それは 高槻にもわからない。

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