×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

狼煙


[Return Index]

現れたのは女装の包帯男、柏木耕一。
アタシの記憶にある姿よりも、遥かに包帯だらけで血塗れだ。

隣で呆然としていた七瀬が、ようやく口を開く。
「耕一さん…なんだか、どんどん酷くなってない?」
そう言った後も、ぽかんと口を開けたままだ。
アタシよりも先に、耕一さんに出会っている七瀬にとって、その変化は口の塞がらないほど酷いらしい。
…無理もない。
漫画のように、身体のほとんどを包帯で覆われており、しかも滲む血のせいで白い部分がほとんどないのだから。

「ははは…面目ない」
乾いた声で、耕一さんは心底申し訳なさそうに笑う。
だが、次の瞬間には真顔に戻って情況を説明しはじめた。
「もう聞いたと思うけれど…初音ちゃんが……死んだんだ。
 それで梓が暴走しちゃって…離れ離れになっている」
それについては、言葉もない。
一足先に出発したアタシたちは、頷くことしかできなかった。

だが耕一さんの本論は、過ぎた事実に絞られてはいない。
「その上さっき、マナちゃんが倒れたんだ。
 疲労のせいだと思ったし、マナちゃんも梓を追えって言うから気配を追って来たんだけど…いま思えば、二人して髭面
 の親父にハサミで斬られた後の話なんだ。 そのときに毒か何かで冒されたのかもしれない」
冷静に分析して見せた耕一さんの、唯一残った欠陥部分を七瀬が問い質した。
「ちょ-----ちょっと待って? 耕一さんは、大丈夫なの?」
「ああ? うん、今のところ大丈夫みたいだな。 俺にはあまり、効いてなかったんだと思う。
 走っていてようやく解った程度で、少し熱っぽくて眩暈がするぐらいで済んでいる」
熱っぽいのは、この島に来てからずっとな気もするけどね、と付け加える余裕もあるようだ。


「それで俺の身体の事はともかく、マナちゃんは参ってるから、相当やばい。
 それに梓も探さなくちゃならないんだ。
 梓には-----会ってないよな?
 それじゃ毒を治療できるような、そういう物がありそうな場所に、心当たりは無いかい?」

アタシは七瀬と、顔を見合わせる。
目的のものがありそうな場所、すなわち保健室は、小学校自体の危険性から近付けないからだ。
思わず二人して、難しい顔になってしまっていた。


「あの…・これから行くところ、病院みたいのは…無いのかな?」
いつの間にか這い出していた、観鈴がぽつりと呟くように言った。
「…これからって?
 そう言えば、どこへ行く気だったんだい?」
知らない人物の出現に戸惑いつつも、耕一さんは疑問を口にした。

七瀬が全てを言ってしまう前に、軽くお互いを紹介させて、アタシが情報を絞ることにした。
…潜水艇のことは、下手に言いふらさないほうが良いような気がしたから。
「ほら、みんなでロボットと戦ったじゃない?
 あの施設を、今は占拠してるらしいのよ」
そこでいったん言葉を切って、七瀬のほうを見る。

あまり賛意は示していなかったけれど、意味は通じたらしく、七瀬は軽く頷いた。
アタシも軽く頷き返して、更に続けようと…したんだけれど。
「そこで、”これからの事”を皆で相談しようと思って-----」
「そうか、やっぱりあの施設に行くしかない-----」
「どうしたのよ晴香?
 それに耕一さんまで-----」
「は、晴香さん、これって-----」

”それ”を見るなり、アタシと七瀬は、思わす走り出していた。
観鈴と耕一さんも、ついて来ている。
(芹香さんと北川は…どうなった!?)

 この島に来て、何度となく感じたもの。
 …嫌な、予感がした。



すっかり気分を害した北川と、使命感に燃えていつになく静かな月宮さん。
かなりの凸凹コンビを連れて、私は岩場を抜けた。
よくもこれだけの間、文句を言い続けられると感心するほど、北川の不平不満は垂れ流されたままになっている。
何度か言い負かしてやったものの、根本的解決法は北川の命を絶つか、声帯を潰すしかないと結論して、無視を
決め込むことにして久しい。

むしろ私は、前方へ意識のほとんどを注いでいた。
施設で得た情報だけが、確実なものだったのだから、あとは自分の目と耳が頼りにならざるを得ない。
だから、北川の相手をしている暇など無い。

そうして神経を針のように尖らせ、前進する私の耳に、不穏な音が飛び込んできた。
駆けて来る足音。 それも、多数だ。
(月宮さん、それに北川! 静かに、伏せなさい)
北川が、この期に及んで文句を垂れる。
(なんだってんだよ、さっきから! またどうせ風の音かなんか…ん?違うな?)
(でしょう?)
しかし、さすがに異変を感じ取ったようで黙り込む。

 三人して、静かに伏せた。
 そのとき僅かに見えた、その影は-----


「な-----七瀬さんっ!?」
「誰!? ------って、あんた繭!?」
私は(あまりに私らしくないけれど、極めて即座に、そして無防備に)立ち上がった。
転がり込むように、七瀬さんが飛びついてきた。

細かい形容は必要ない。
ただ、嬉しい。
”今までの私”と同じ気持ちが共有できている。
北川と月宮さんが、唖然としているのを無視して、七瀬さんにしがみついた。
「七瀬さんっ!」
「繭!!」
七瀬さん…今はまだ、気付いていないようだけど。
きっと私の変化に驚くだろうな、と期待を膨らませていた。
髪の毛、どうしたの?
引っ張れなくて、寂しいよ。
でも、生きててくれて嬉しいよ、なんて事を考えながら。

 しかし、喜びの時は一瞬でしかなかった。
 喜びを言葉にする前に、邪魔が入ってしまったのだ。

最初に固まったのは、北川。
「北川!施設は、芹香さんは、どうなったの!?」
切羽詰った声で尋ねられているにも関わらず、余裕たっぷりに返す自称紳士の慇懃無礼な言い草は-----
「晴香さん、相変らず口調が厳しくてらっしゃいま-----」
-----言い草は、炸裂しなかった。

そして月宮さん。
「どうし-----うぐぅ!?」
お馴染みの、奇声あげて固まった。

最期になったのは、私。
「施設に何が-----」
開いた口が、塞がらなかった。

 全員が同じ方向を見て、絶句していた。

 暗さのために、規模は断定できないのだが。
 あれは間違いなく-----煙だ。
 おぼろげに輝く月の光を燻すように、煙が立ち昇っている。
 その下に、目指す岩場の施設があるはずの場所だった。

 そこに希望を託していた者を呼び込む、狼煙のようであった。



【北川潤、月宮あゆ、椎名繭、柏木耕一、七瀬留美、巳間晴香、神尾観鈴、集合中】
【全員、岩場の施設から立ち上る煙を見て絶句】

[←Before Page] [Next Page→]