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空を見上げて


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――――脳が、痛む。

フランクは何処とも知れぬ森の中を、独り歩いていた。
周りにいっさい注意を払わず、その足取りは危うい。
そのために何度も地面に足を取られて転んだり、草や枝で小さな傷を作ったりもしていたが、
しかしそれらを気に止める様子は無かった。

――――おかしい。
さっきの奴らは、いったい何だったんだ?
確かに殺したはず――そう、この電波で確かに奴らの頭を焼き殺してやったはず。
なのに、起き上がってくるとは、どういうことだ。

ふと気が付くと、フランクの周りをぶんぶんと一匹の蚊が飛び回っていた。鬱陶しいことこの上無い。
フランクはそれを忌々しげに睨むと、電波の力でその蚊を破壊した。
蚊は粉々になって消えた。だが、耳障りな羽音は消えなかった。
それどころか、肉体を失ってますます身軽になったとでもいうように、蚊は軽快に飛び回っていた。
フランクは平手で蚊を木に叩きつけた。
今度こそ羽音は消えた。

ふと気が付くと、フランクの腕を一匹の蜘蛛が這い回っていた。鬱陶しいことこの上無い。
フランクはそれを忌々しげに睨むと、電波の力でその蜘蛛を破壊した。
蜘蛛は体液を飛び散らせ破裂した。だが、這い回る感触は消えなかった。
それどころか、肉体を失ってますます身軽になったとでもいうように、蜘蛛は軽快に這い回っていた。
フランクは蜘蛛を払い落として何度も何度も踏みつけた。

踏みつけながら、フランクは思わず笑い出したくなった。

――――くくく……なんということだ。
この力では"虫も殺せない"じゃないか。
何なんだ……。
これは何なんだ……。
これは……いったい……何なんだッ!!

怒りに任せて木に拳を叩き付ける。
わずかに木がゆらめき、ざあと音を立てて一斉に水滴が落ちる。
フランクはそれを頭から浴びた。

――――なんて無力なんだ、俺は。
これでは何も殺せない……ましてやあの悪魔を殺すことなど……。

いつの間にかフランクは開けた場所へ出ていた。
夕暮れの薄明かりに照らされて、鳥居がそびえ立っている。
そしていくつか死体が転がっていた。
これ幸いとばかりにフランクは目に付いた死体を漁る。

――――力だ。力が足りない。銃でも何でもいい。奴を殺せるだけの何かを――。

だが武器の類は一切見つからなかった。誰かが全て持ち去った後のようだ。
いらつきながらも次の死体を調べようと、フランクは頭をあげる。


そして、彼はそれを見た。
見てしまった。
彼にとって有り得ないはずのものを。有ってはならないものを。

フランクは声にならない叫びをあげながら、それに向かって走り寄る。

――――バカな……見間違いだ、そうに決まってる。
そんな馬鹿なことがあってたまるか……そんな馬鹿なことが……そんな馬鹿なことがそんな
馬鹿なそんなそんなそんなばかなバカナ馬鹿な馬鹿ナばかナバカな馬鹿なばかなバカナ馬鹿
なバカな馬鹿なばかなバカナ馬鹿な馬鹿ナ馬鹿なバカな馬鹿なばかなバカナ馬鹿な馬鹿ナ馬
鹿な馬鹿ナばかナバカな馬鹿なばかなバカナ馬鹿な馬鹿ナばかナバカな馬鹿なばかなバカナ
馬鹿なバカな馬鹿なばかなバカナ――――

しかし、それは確かにそこにあったのだった。
名も知らぬ少年の、死体。




言葉も無く、フランクは呆然と立ちつくしていた。
やがて震える手をその死体に伸ばす。
冷たい。
それが雨のせいだけでないのは、明白だった。
彼は激昂してその死体に掴みかかった。

――――何なんだお前は!
お前は偽物だ! 俺はまだ殺してない! こんなところでお前が死んでいるはずが無い!!
この偽物がっ……!?

ざくりと指が切れる感触。痛みでわずかながら落ち着きを取り戻す。
見れば、襟首から紙の様なものが覗いている。掴んだ際にこれで切ってしまったのだろう。
フランクは知っていた。それは反射兵器と呼ばれるもの。彼の狙撃を何度も阻んだもの。
彼はその死体の服を捲くる。胴回りにそれが隙間無く貼り付けられていた。銃撃をうけた痕もある。

――――ああ、そうなのか。これは、そういうことなのか。

それを見た瞬間、フランクは不意に合点がいった。
これは確かにあの少年の成れの果てなのだと。
理屈ではなかった。冷静に判断する神経など、とうの昔に擦り切れている。


人はどうしようもなくなった時、笑うしかないという。
フランクは腹の底から笑った。痙攣のような笑い。
ふ、と彼の全身から力が抜け、そのまま大の字になって土の上に転がった。
空が見えた。

喜ぶべきなのだろう。憎き仇が死んだのだから。
例え自分のやってきたことが、全くの無駄だったとしても。
あんな真似までして力を求めた事が、すべて無意味になったとしても。
だが、今湧き上がってくるのは大きな疲労感だけだった。
一時は皆殺しすら考えたはずが、少年の死体を見てしまった今では殺意も湧き上がってこない。
立ち上がる気力も無い。
ほんのわずか動くことすら億劫だった。
このまま消えてしまえるのなら、とも思う。
何にしろ――自分の役目は終ったと、そういうことなのだろう。

――――祐介、お前の仇は死んだよ。
結局何も出来なかった。俺のやるべきことは消えた。もう俺には何もない。
ああ、コーヒーが飲みたい、な――。



【フランク長瀬 少年の死体そばにてダウン】

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