駄目な人


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彼はうなだれる。
目を覚ましたら待っていたのは現実。
こっけいな現実。
認めたくない現実。
でも現実は現実。

彼は寡黙だ。
それが人には冷静に見える。
本当はただ口下手なだけ。
伝えたいことが上手く伝わった時なんてない。
だから、彼は友達が少ない。

彼は感情の変化を表に出さない。
それが人には落ち着いているように見える。
本当は勇気がないだけ。
生の自分をだして嫌われるのが怖いだけ。
だから、彼は友達が少ない。

彼は友達が少ない。
それが人には孤高に見える。
本当はほしいのに作れない。
作りたくても作れない。
作り方がわからない。
だから、彼は友達が少ない。

そんな彼も年を取る。
彼は二人の甥を知ることになる。
親族が集まる時には必ず面倒を見る。
二人は彼になついた。
彼は人になつかれたのは初めてだった。
そこには嬉しさがあった。

二人との仲はその後も続いた。
時たま、彼らは喫茶店に遊びにきた。
彼はわざと苦いコーヒーを出す。
二人は我慢しながらそれを飲む。
二人の性格から出された物を断ることはできない。
苦しくなってきたところで飲むのをやめさせる。
笑いながら甘いものを出してあげる。
二人は怒る。笑いながら。
彼は大切に思う。その時間を。
そこには楽しさがあった。

彼と二人は年を取る。
二人の内、片方は大学生に、片方は高校生になった。
付き合いは衰えなく、大学生とは一緒に働いている。
二人は着実に成長していった。
彼は良い叔父であろうとした。
だから、二人に好きな人ができた時は、乏しい経験をひねり出し、相談に乗ってあげた。
彼は恋を実らせることが出来なかった。
二人には成功してほしかった。
そこにはちょっと悲しさもあった。

二人は大切な存在だった。

そこで現実に戻る。
色々あった。
自分は努力したつもりだった。
結果はこれだ。
情けない。消えたい。死にたい。

二人を殺し合いに参加させる。
一人は死んでしまう。
仇をとろうとする。
失敗を続ける。
死姦する。
狂う。
その行動は全部無意味、仇はすでに死んでいた。

そっと首に手をかける。
死のうとしてみる。
でも死ねない。
死ねるほどの勇気もない。

彼は動く。
彰に会うため。
会ったらどうするのかも解らない。
ただ、彰に会いたい。
でも、なんて言えばいいのだろう。
自分は口下手だし。

結局、彼は逃げた。



【フランク 動き出す】

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