正しいことを
静寂が、辺りを支配する。
月光を受け、佇む施設から昇る煙に
だれもが、言葉を発せなかった。
「何かあったと考えるのが、妥当ね・・・」
最初に呟いたのは、繭。
「ヤバイわね。ぐずぐずしてる暇はないわ、さっさとあそこに戻らないと・・」
「そ、そんな。それじゃあ梓さんは・・・」
今にも駆け出しそうな繭に慌ててあゆが繭に問い掛ける。
「仕方ないでしょ!向こうには残してきた三人がいるのよ!一人の命と三人の命、助けるなら人数の多い方でしょ!」
そういってから、気付く。
私、なんてイヤな女なんだろう。
変に達観した考えが、頭を支配して、酷い台詞が平気で出る。
そんな私に月宮さんは、涙ぐんで反論する。
「う、うぐう。な、ならボク一人でも行くよ!だって梓さんは学校でボクを助けてくれた! 今度はボクが、助ける番だよ!」
ああ、なんて美しい台詞なんだろう。
同じ助けるでも、私とはなんという違いだろう。
生き残りたいから――助ける。
その人を救いたいから――助ける。
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて!こんなとこで言い争っても・・」
妙に饒舌な繭に面食らいながらも、七瀬が仲裁に入るが、
「止めてもダメだよ!ボクは絶対に行く!」
そういうとあゆは、自分のバッグを引っつかんでいって、走っていった。
施設が吐き出す煙の量が、いつの間にか増えていた。
「やっぱ、俺も行くわ。月宮さんを一人には出来ないしな」
あゆが去った後、足の遅い観鈴と全身傷だらけの耕一が追いついて、二人に簡単な状況説明をした後、北川がそう呟いた。
「施設の方は、あんた達に頼む。俺は月宮さんを探しに行く、
上手くいけば、外に出た連中を纏めて連れて帰れるかも知れないしな」
その発言にに、繭は肩を震わせ、
「そんなこと・・・・認められるわけ・・・ないじゃない!」
激昂しながら非難の口を北川に向ける。
「考えてもみなさいよ!月宮さんは私情で飛び出していったのよ!残りの人数が少ないこの状況ではなるべく集団行動をしなきゃいけないのはあんたのその足りない脳みそでもわかってるんでしょう!」
そう詰め寄る彼女に北川は頭を掻きながら、
「確かに、お嬢ちゃんの言ってる事は正しい、ああ正しいさ。
でも、俺たちは人間なんだ、正しくない事を、時には選んじまうんだよ。
けどよ、それが間違ってると思ったら、ところがそうでもないもんだぜ」
いつものおどけた口調、だがそれは聞いている者の心に響き、
「時に正しくない事が正しいことだってあるんだ、それを嬢ちゃんは知っといたほうがいいぜ。そんな機械みたいな考えじゃ、いつか疲れきっちまうからな」
そういい残して、北川もまた、夜の闇に姿を消した。
(機械・・・・・私が?・・)
確かに北川はそういった。
自分を、『機械』と。
(違う!違う!違う!私はただ、みんなで生き残りたくて・・・だから・・だから・・・)
そこで気付く、そのために人を切り捨てるは、やはり、機械ではないのかと。
「ねえ、椎名さん・・それで施設の事なんだけど・・」
晴香が繭に話し掛けるが、彼女の耳には聞こえず、
(解らない・・解らないよ・・・どうすればいいの・・・・、教えてよこーへい。教えてよみずかおねえちゃん・・・・)
一人、悩んでいた。
【月宮あゆ 北川潤 単独行動をとる】