二つの機械


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七瀬さんと晴香さんの二人と装備を交換すると、耕一さんは、行ってしまった。
「…三人のうち誰かが……凶行?」
私は思わず呟いていた。あの三人のうち?誰かが?
……そんなことが…あるのだろうか?

「繭っ!!」
私を呼ぶ、七瀬さんの大きな声。
「ぼーっとしてないで!みゅーでもなんでもいいから、返事してよ!」
七瀬さんが…叫んでいる。
そして晴香さんが、観鈴さんの持っている機械を指差しながら言う。
「繭…教会以来かしら?
 迷っているところで悪いけど、これを見なさい。
 施設にはもう、一人しか残っていないみたいよ?」
……050。この番号はスフィーさん。
私は、彼女のことをよく知らない。凶行に走る可能性を…否定できない。

だけど、私は首を振る。
「晴香さん、私もそうだけど…詠美さんも芹香さんも、管理者のレーダーでは感知されないの。
 だから、その機械じゃ判らないのよ…」
そして爆弾のからくりを、皆に説明した。
七瀬さんたちは、どこかで聞きかじっていたのだろう、そう言えばそんな話もあったわね、と素早く納得した。
「それじゃあ行ってみないと判らないじゃ-----ちょっと…待って?」
ふと思い出したように、七瀬さんがもう一つ機械を取り出す。
「これ…繭も反応してない?」
「え?これは…?」
それは…志保ちゃんレーダーは…馬鹿な名前のわりに、役に立ちそうだった。
感知方式が違うのだろう、この場所にも四つの反応点が-----つまり私も-----ある。

 しかし、それでも。
 施設の反応点は、ひとつだけだった。


「詠美さん…芹香さん…!」
スフィーさんが凶行に走った、というのだろうか?
もしもそうなら、CDはどうなるのだろう?

私は全てのCDが解析されたときに、北川を施設に居させるために付いて来たんだ。
だから魔法使いの誰かがいれば、北川でなくてもよかった。
しかし、芹香さんはもういないし、スフィーさんが敵ならば…もう北川しか、残っていない。
それを北川は解っているのだろうか?本当に、後悔しないというのだろうか?
第一CDは、北川だけの問題じゃない。御堂のオッサンや、詠美さん、そして私の問題でもあるはずだ。

北川達の言う通り、確かに損得勘定で行動を決めるのは、正しくないのかもしれない。
だからって、バラバラになるのが正しいはずもない。
…いや、正しいとか、正しくないとか言う問題じゃないのかもしれない。
私は、私の信じる道を行くしかないんだ。

ぱん、と自分の頬を叩いてみる。皆が驚いて、固まる。
構わず大きく息を吸って、大きく吐いてみる。
「みんな、お願い。北川を探すのを手伝って欲しいの。
 あいつの代わりは-----梓さんたちを探すのは-----私たちでもできる。
 でも、あいつにしかできない事が、施設にはあるのよ!」

返ってきたのは、僅かばかりの無言。
巳間さんが考えている。
CDの封印について、説明しようとした私を、手で押しとどめる。
そして視線が合わせたまま肩をすくめ、薄く笑って言った。

 「-----どうでも、いいわ。
  アタシ、かなえてあげるように心がけているのよ。
  …胸の小さい、チビすけのお願いはね」


(-----ねえ由依、繭はあんたより、ぺたんこだね)
アタシがそんな風に考えてるのを知る由もないだろうが、繭が腹を立てている。
達者な物言いだが、やはり子供だ。
(…ま、誰でも胸が小さいと言われれば、怒るもんなんだろうけれど)

なにはともあれ、これでだいたいの方針は決まったようだった。
残りの全員で北川を捕獲。
そのあと、施設に向かう組(たぶん繭はこっちだ)と、あゆって娘を追う組(アタシ達?)に別れればいい。
どうせ施設には…犯人しか、残っていないのだから。

そこでふと、思考が止まった。
アタシと七瀬はそれでいいとして、観鈴はどうなんだろう。
「-----ところで観鈴、アンタはいいの?施設の他に用事があったりしない?」
どう見ても人畜無害そうな彼女だが、だからと言って目的がないとは限らない。

しかし、母親と往人さんを失った彼女には、あまり目的意識はないようだった。
「えと…わたしは……」
…こういう調子で、生き残れるのだろうか?と心配になる。
この混沌とした情況下で、心を強く持たなければ、いつおかしくなっても不思議はない。
「とりあえず、北川さんを探したいかな…」
やっと出た意志らしきものは、これだけだった。繭に引き摺られただけのような気もする。

彼女は-----往人さんや、母親の死について何も話そうとしない。
…葉子さんや、郁未がやったのだろうか?
いずれにしても、”知らないでいいこと”な気がしたから-----黙っておいた。

 今はただ、彼女の意志を尊重してやろう。
 そう、思っている。


七瀬が、繭を珍しいオモチャのように弄くりまわし、しきりに話し掛けていた。
繭は繭で、何か思うところがあるのだろうか、それにじっと耐えてる。
眺めていると面白いのだが、今は時間が惜しい。
「ちゃっちゃと北川捕まえて、CDの封印とやらを解かせないといけないんでしょ?」
「まあ、そうなんです。たぶん四枚のCDは中身が類似しているだろうから、解析は早いと思うんですよ」
「解析だとか言われても、よく解んないけど…その辺は北川とアンタに任せるよ。
 北川はすぐ捕まるから、その後のことを考えておいた方がいいよ」

そこまで言ったとき、繭が不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「巳間さん…どうしてそんなに楽天的なんですか?」
「失礼ね…なにも無意味に楽天的って訳じゃ、ないわよ?」
振り向いて七瀬に合図をすると、一瞬きょとんとした七瀬が、すぐに気が付いて例のブツを取り出す。
「アタシ達には、あれがあるじゃない」
この妙なレーダーは、観鈴のレーダーで感知できない北川をも、はっきりと捕らえていた。

…北川は迷走しているのだろうか、そう遠くはないようだ。
それを見た七瀬が、おもわず呟く。
「あいつ…本当にあゆちゃんを追ってるのかしら……」
「それは……どうかな…」
「…不安ね…」
「……北川さんって…」

 今や最大の心配事は。
 北川の追跡能力だった。

「うぐぅ…ここ、どこだろう…。
 千鶴さん、梓さぁん…」

 ついでに、もう一人も疑わしかったりした。



【耕一 防弾チョッキ(アイドルタイプ)・応急処置セット・ナイフ・ベネリM3・ベレッタM92F 所持】
【晴香 刀・人物探知機・ワルサーP38・G3A3アサルトライフル・高槻の手首(?)ひとつ 所持】
【七瀬 毒刀・手榴弾三個・レーザーポインター・瑞佳のリボン・ステアーAUG・志保ちゃんレーダー・高槻の手首(?)二つ 所持】
【観鈴 人形・シグ・ザウェルショート9mm・投げナイフ×2 所持】
【繭 ステアーTMP・伸縮式警棒・セイカクハンテンダケ 所持】
【北川 ステアーTMP、ナイフ1本、硫酸タンク 所持】
【あゆ イングラムM11、ナイフ1本 所持】

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