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神人・スフィー


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――つまらぬ。まったくもってつまらぬ。不快極まりない。

 神奈は苛立っていた。

 少年と、その一派。
 彰と、その内に秘めたる鬼。
 マナ。
 梓。

 神奈が手駒として考えていた者に対しての接続は、ことごとく断ち切られて
いた。
 死によって。
 あるいはそれ以外の何かの力によって。
 もちろん、神奈自身も多くの力を失っていた。それ故に晴香への接続を保て
なかった。だが、結界に影響を及ぼすほど力を失っているわけではない。その
気になれば生き残りを屠ることも可能だろう。お互いを憎み、殺し合わないの
であれば、自らの手を下さねばなるまい。遊戯としての意味は失われることに
なるが。それこそ不快極まりない話だった。

 ただ、今のままでは駄目だ。消耗が大きすぎる。誰かに憑かねばならない。
 贄が必要だった。

 彼女は最後の手駒の下へと向かった。
 交わした契約を果たす時が来たのだ。



 施設、出口。
 夜の闇の中にぽっかりと空いたその穴から出てきたのは、ピンク髪の、年端
もいかぬ一人の少女。
 手には全く似合わないM4カービンを抱え。
 体力も、気力も――そして魔力さえも尽きかけている。
 スフィーだった。
(――私が終わらせなきゃ――私がやらなくちゃ――)
 全てを失い、全てを見失っている彼女を支えていたのは、僅かに残っていた
思い出。
 健太郎、結花、なつみ、みどり、リアン。
 かろうじて残っていたその思い出にすがって、彼女は彼女でいようとした。
たとえ結果として誰かを殺めることになっても、だ。
 しかし、それは。
 彼女から全てを奪おうとしていた。再度、圧倒的な流入。自分の想いだけで
なく、思い出までもかき消されてしまう。かき消されてゆく思い出に、必死に
なってしがみついて、彼女は叫んでいた。
「いや!」
 銃を取り落とし。
「こんなのいや!」
 頭を抱え。
「いや――」
 地面にうずくまった。



 スフィーは地面にうずくまっていた。先程の叫びがまるで嘘としか思えない
ほど静かに。そして、静かに立ち上がった。
 己の手を見る。決して小さくはない。
 手だけではない――背格好も、体つきも、完全に大人の女性のそれになって
いた。

――余に足る身体のはずもなかろうが、それほど悪くもないようじゃな。

 神奈は、スフィーの身体に合わせて己の力の一部を変換していた。身体的な
成長は恐らくその影響なのだろう――と、神奈は推測していた。
 神奈は手を前に掲げ。

――ふっ。

 変換した力――魔力を、より現実的な形に変換した。スフィーのルール――
魔法に則って。それは光の矢となり、自らの手を放れ、近くの茂みを穿つ。

――悪くはない。

 そして、自分の足下に落ちていたM4カービンを拾う。
 引き金にかけた人差し指をほんの少し動かすだけで、人間の身体など致命的
に破壊してしまう弾丸を射出する武器。そこには殺すという絶対的な意志以外、
何も介在しない。

――興のない武器よの。

 だが、あの愚か者どもにはこの程度がお似合いだ。

「……こんなのいや」



 スフィーは失われてはいなかった。
 更に削り取られてしまった思い出とともに、意識の海の、最も深く暗い場所
に潜んでいた。
 並の人間であれば、自意識などあっという間に吹き飛んでいただろう。
 それ以前に身体が保たずに死ぬだろうが。
 神奈の意識の流入に耐え切り、そして逃れることができたのは、彼女の天性
の才能に依るところが大きかった。

 でも、今の彼女は。

「……たすけて」

「……たすけて、リアン」

「……たすけて、けんたろ」

 あまりに無力だった。



――せっかくの余の遊戯をふいにしたのじゃ、この程度の戯れには付き合って
もらおうぞ。

 頬を伝う涙の筋は、乾かない。
 あえて神奈は、絶望を囀ること、そして泣くことだけは許していた。神奈に
とっては非常に居心地のいい場所だった。

――この余自らの手に掛かって死ねる。うぬらには過ぎた土産だと思わぬか?

 誰に向けてというわけでもなく――いや、むしろ、この島で生き残っている
全ての人間に向けられたものか。銃を手にしているスフィーの身体で、神奈は
呟いた。



【神奈、スフィーの身体を掌握。その力によりスフィーの身体はLv.4に】
【スフィー、僅かに残った自意識で抵抗を続けるが、無力】

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