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傀儡と道化と、人間達と動物達


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(誰? 長瀬さん? 生きて……!?)
 スフィーの意識は未だ消え去ってはいなかった。
 男がのろのろと歩きながらスフィーの視界に入ってくると彼女は、その男を彼女にとっての日常を形作っていた人物の一人と錯覚した。
 最後の念波が途絶えてから、ずっと死んだとばかり思っていた。
 あまりにも酷な境遇の中で知己を見つけ、思わず頬が綻び、喜びを表す言葉が口を……。
「ふむ、下らぬ茶番を企てよって……。道化が!」
 口をついて出たのは神奈の言葉だった。
「興味本位で余を抱え込み、都合が悪くなると闇に葬ろうとは、いかにもうぬら人間らしい。しかしじゃ……。余が相手だというのが拙かった。余は多分に不快じゃ。余をこのような目に遭わせたうぬらに……」
 神奈が次に何をしようとしているのか、スフィーには残酷なまでにハッキリと分かった。
 スフィーの手がM4カービンを握ったまま、少しずつ、しかし確実に地面と平行な高さまで上がっていく。
 現れたのは神奈を陥れようとした源之助ではなかった。
 源之助と同じ様な顔の造形で、ひげも豊かに備えていたが、その色が違った。
 強いて言えば、目の前の男の方が体格も良く、年も若いようだった。
 それは生身の管理者最後の一人、フランク・長瀬だったが、神奈にとってはどちらであろうとさほど関係はなかった。
 銃のどこかが何かとこすれたか、金属音を立てた。
(やめて、やめて!!)
 スフィーの絶叫は、彼女の口から漏れることはない。

 そして、フランクは。
 自分に銃が向けられたことにすら気が付いていなかった。
(彰に会おう。
 彰に会って、それから、それから……。
 それから何を言えばいい?
 俺は一体、あいつに何を言えば良いんだ?
 俺はあいつに会って、どうしたらいいのだろう……?)
「…………」
 フランクの心は、答えの出ない思考の迷宮の中で彷徨っていた。
 そしてフランクの体は、あてどなく地上を彷徨いつつ、施設入り口からほど離れたところで、それと出会ってしまったのだった。
 不意にどこからか聞こえてきたガチャリという音で初めて、フランクは周囲に人間がいることに気が付いた。
 果たして、フランクはそれがどんな人物であるかをみとめる前に銃弾に晒されることになった。
 
 無機質な、弾丸の射出音が静かに響く。
 不器用なダンスを踊るようにして、フランクの体は地に伏す。
「…………」
 事切れる間際、フランクは何かを呟いた。
 しかし、その声は誰にも届くことはなかった。
 スフィーにさえ。
「いや、いやぁー!!」
 絶叫と共に、整ったスフィーの顔から、暮雨だのごとく涙が流れ落ちる。
 道化の一人であるフランクを始末するまで、黙らせておいたスフィーのその感情が表に出てきているのだ。
 神奈は、スフィーにその一事のみを許可したのだ。
「こんなの、あたしは……いや……」
 神奈は、ほくそ笑む。
(ふむ、心地よい。これでこそ、じゃ……)



 一方、そこから少しばかり離れたところでは……。

「ごめんなさい、梓。貴方まで失ったら、私は、私は……」
「ああ、悪かったよ、千鶴姉……。わたしがしっかりしてないと、困るよな……」
 駆けつけた千鶴は、まず梓の無事を喜び、その身を抱き寄せた。
「すまない、千鶴姉。わたしが下手をうったから、初音を守れなかった。それに、茸もまだ、手に入ってないんだ……。どうも、口ばっかで、困るよ……実際……」
 心からそれを悔いるように梓は言い、顔を歪ませた。
 大した外傷もないのに、梓は苦しそうだった。
 人の限界を超えるほどの速度で島内を駆け続けていたのかもしれない。
「貴方は、悪くない……。茸も今頃は何とかなってるはず。それに、悪いのは全部わたしだから」
 梓の言うとおりにしていれば、という言葉を千鶴はすんでのところで口にとどめた。
 それは言ってはいけない言葉だったから。
 梓は目を瞑りながら言った。
「そう、なんだ……。たださ、千鶴姉は悪くないよ。悪いところがあるとしたら、それは、いつでも、なんでも一人で抱え込むってことさ。わたしたっ、わたしがいるんだから、ね?」
「そう、そうね……。そうさせてもらうわ……」
 しばらく、梓を抱いたまま、千鶴も目を瞑る。
 その側では、観鈴が彰の応急処置をしようとしていて、わたわたと慌ただしげにしていた。

 数瞬後、男の手が肩に置かれ、千鶴は再び現実に戻された。
「感動の対面のところ悪いんだけど……」
 と、彰は言う。
 重傷のはずの割には、それほど苦しそうではない。
 むしろ梓の方が辛そうだと言っても良かった。
 そして。
 千鶴は彰の言葉にコクリと肯いたが、梓の表情は複雑だった。
「あんたが、初音の仇だってのは変わらない。でも、あんたを殺そうとしたのはわたしの意志じゃない。
 こんな身勝手な言葉を、言い訳だと思われても構わない。でも、言っておきたいことがあるんだ。
 この島に巣くう、悪意の存在を。あの羽の生えた、一見可愛らしくて、儚げな女の子のことを……」
 梓の言葉に、千鶴と彰は目を見合わせた。
 やがて彰は、重々しく呟いた。
「君も、なのか……」
 っと。
 やや、状況をつかみかねていた観鈴もまた、その青みがかった透き通るような瞳を大きく見開いていた。
 梓の語った言葉と、彰の台詞に。
 それは、彼女にとって……。



 あゆと北川は、まっすぐに梓と千鶴、さらに彰と観鈴達のいる場所に向かっていた。
 そして、七瀬と晴香と繭も。レーダーを頼りに北川達の近くまで迫っている。
 生きている人間達は集いつつあった。
 ただ二人を除いて。
 日はすっかり沈んでいる。
 薄暗い林の中で動物たちは、その残された内の一人を目前にしていた。
 さらに、もう一人の男、耕一も間もなくその場にやってくるはずだった。
 もっとも、それは動物たちのあずかり知らぬ事ではあったが……。
 
「そうだ、変な、だけど親切な男の人に助けられて、また眠っちゃったんだ」
 と呟いたマナは、感慨に耽っていた。
 しかし、ふと目をやると、すぐ近くに奇妙な動物の一団を見つけることになった。
「えっ……と?」
 島に来てから色々な経験を積んだはずのマナにも、こういうときにどうするべきなのかは、すぐには浮かばなかった。
 
「こいつは、その例の『誰か』なのか?」
 ぴろが問う。
「いえ、違います……」
 呆然とするマナを前に、そらは答えた。
「じゃあ、早く別のところへ行かなくちゃ……」
 ポチがそういいかけたところで、
「む?」
 そらが不意にどこか遠くを見るような瞳で、暗くなった空を見上げた。

「どうしたんだ、そら」
 ぴろが再び問う。
「鳥目だから今日の行動は終了とか言わないわよね?」
 ポチが茶化すように言う。
「分かりません。だけど、私たちが出てきた施設の入り口から、そう離れていない場所で何かが起こった気がするんです」
 自分の言葉をあっさり流されたことにポチは腹を立てなかった。
「でも、貴方の目的は、まず、例の『誰か』に会うことなんでしょ?」
「ええ、ええ、そうです。そうなんですけどね……」
「それが、その『誰か』なのか、」
 ポチが問う。
「分からない。分からないんです……」
 そらは逡巡した。
「全てを決めるのは、そら、お前だ」
「あんたのやりたいようにやらせたげるって、決めたからね?」

 種族の異なる動物が、まるで意志の疎通でもとるかのように、向き合って何か喚きあっている。
 マナは静かにその様子を見つめる。
 不意に、白蛇と犬のような生き物が黙り、カラスに注目を向けた。
 そしてマナもまた、その視線をカラスに注いだ……。

                   【フランク・長瀬 死亡】
                       【残り12人?】

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