空と少女と動物と


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観鈴は彰の手当てを済ませてからトイレに行ってくると言って
足早に医務室を出ていた。
本当にトイレに行きたかったわけではなかった。
ただ、医務室で彰と二人きりでいるのが耐えがたかった。
帰るつもりがないと言う青年。
ここから帰れば家族や友達が待っているに違いないのに。
……帰っても誰も待っている人がいない自分と違って。

「あの人のこと……ちょっと分からない」
お母さんだったら「島に残る?何言うとんのや、うちが殺して
でも連れて帰ったるわ!」なんて言うんだろうな。
くすっと笑みを浮かべたが、同時に寂しさも襲ってきた。
もう、声を聞くことは二度とないのだ。

つらいけど、寂しいけど……頑張らなくちゃ。
一人でも強い子でいないと死んでまでお母さんと往人さんに
心配かけちゃうもんね。
……でも、少し疲れたかな。ずっと空見てなかった気がする。

とてとてと施設の入り口から出て壁を背に座り込み、空を見上げた。
「きれい。でも、昼間の方が空は好きだな」
今は大勢の人が一緒に居るけど……友達はひとりもいない。

往人さんの時と同じようにこっちから明るく声をかけてみようかな。
もしかしたら友達になってくれる人がいるしれないし。


ぼんやりと考えていた観鈴の目の前に現れたのは鴉。
ばっさばっさと舞い降りてきた。
観鈴の目の前に降りてきた鴉は観鈴のほうを見上げてきた。
観鈴を見上げる鴉と観鈴の目があった。
何故かしばらくの間みつめあっている。

動物なら友達になってくれるかな?
何処か人間臭いしぐさで鴉が首を傾げた。観鈴もつられて首を傾げた。
鴉の表情は分からないがなんとなく考え込んでいるような気がした。
本来人に馴れる事のないはずの鴉だが、観鈴から動く気配がない。l

「もしかして友達になりたいの?」
「よし、ちょっと歩いて、振り向いてついてきてなかったら、ここでお別れ」
くるりと後ろを向いてぱたぱたと施設の入り口に向かって歩いて行く。
観鈴の背後ではそらがとことことついていっている。
そらに追いついたポチとぴろもそらについて行った。
「わ、ついてきてるっ。…………」
振り向いて言葉を発してから長い沈黙。
鴉だけだったはずなのに、何故か猫と白蛇までもがついてきている。
「えっ……と。
 みんな一緒に来るの?」


みんな来る?という観鈴の言葉にそらは後ろを振り向いた。
ポチとピロがついてきている。
観鈴と出会った衝撃でふたりの存在を忘れてしまっていた。
「彼女か?」
「……わからない。でもついていかなきゃいけない気がする」
「そう、あなたが決めたのなら私達もついていくわ」
「……ありがとう」
「さっさと行きましょう?彼女…行っちゃうわよ」

問い掛けた観鈴の目の前で動物達が「にゃあ」 「しゅるしゅる」
「か〜」それぞれが鳴き声を上げながら向かい合っている。
「……来てくれないのかな?」
観鈴は動物達に背を向けて歩いて行く。
「にはは、観鈴ちんやっぱりひとり」
寂しげな笑顔でつぶやいたとき頭の後ろで何かがはばたく音がした。
振り返るとさっきまでいた動物達が居なくなっている。
ふと左肩に重みを感じて見てみると鴉が止まっている。
「わっ、やっぱり一緒にきてくれるんだ」
観鈴は破顔する。
「ん?」
何かが這う感触に下に見ると白蛇がするすると右肩に登ってきている。
スカートが重い。下を見ると猫が爪をたててぶら下がっている。
「わっ。君達も来てくれるんだ」
スカートにぶら下がっている猫を頭に乗せた。
頭に載せたぴろ、左肩に止まったそら、右肩に巻き付いたポチ。
「にはは、まるで桃太郎さん。
 みんな、帰っても一緒。わたしの……友達」



【神尾観鈴 そら、ぴろ、ポチ、で完全武装】

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