意志の力は魔法の力
「なん…だ…?」
色のついた霧が部屋の中央に集まっていく。
北川は目を疑った。
それが人の形へと収束していく。
彼にも分かった。
これから不吉なことが起こるであろうと。
自分には、スフィーにおそらく訪れたであろう死を悲しむ間さえないのだと。
「我が名は神奈備命…」
何事も見透かし、何事にも冷めているかのような瞳。
「小娘…」
この世のものとは思えない美麗な顔立ち。
「お主の身体をもらいうける…」
全身から放たれるすさまじいプレッシャー。
人外とはまさにこのこと。
「が…がお…」
観鈴には理解しがたい台詞。
身体をもらいうけるはなんだろう。
――カチャリ――
「待ちな。彼女には手を出させない」
彼だって意味はよくわからなかっただろう。
北川が神奈に銃を向ける。
ステアーTMP。
「この状態の余に、ろくに意志も篭められぬ飛び道具が効くわけなかろう」
「うるせぇ! わけわかんねーこと言うな!!」
神奈の胸に狙いを定める。
「やってやるぜぇぇっ!!」
――バン!――
――パァァアアン――
素人にしては上等。銃弾は神奈の腕に命中した。
そして不可思議な音を立てその腕が霧散する。
意志の力は魔法の力。
神奈が驚きの表情になる。
「ほう…。なかなかの意志力。もしかしたらこのまま余を滅ぼせるかもしれぬぞ?」
北川は迷わず撃ち続ける。
弾丸が命中するたびに神奈の一部が霧散して消える。
――バン!――
そして最後の一発が頭を消滅させた。
残ったのは右腕と左脚のみ。
空に浮かぶかのように残った。
が……。
その右腕が動いた。
――ゴオォォォオオオ!!――
轟音。
北川の身体が木の葉の様に舞い、メインコンピュータに叩きつけられる。
「我ながら情けない破壊力よ…」
北川の目に映るのは、現れた時とほぼ変わらぬ姿の神奈。
「く…くそ……! 効いてねーじゃねーかよ!」
「いや、効いておったよ。そうじゃな。柱のカドに頭をぶつけたといったところかのぉ」
まだ再生しきれていない左手を見せつける。
「余も完璧ではない。そう…まだ完璧ではないのじゃよ」
そして観鈴へとふりかえる。
「だからそなたの身体を…いただくとしよう」
少し離れたところで立ちすくんでいた観鈴。
彼女に向かって神奈が一歩進む。
「が…がお……」
「神尾さん……逃げ………逃げろ!」
北川の気迫と、神奈の圧力で観鈴の足が一歩後退する。
と同時に彼女を襲う、上下の無い世界へと迷い込んだかのような錯覚。
一回転するような勢いで無様に転倒した。
「知らなかったのか?」
また一歩、お互いの距離が縮まった。
「神奈備命からは逃げられない」
観鈴を守れる人間は誰もいない。
【神奈備命 メインコンピュータルームに侵入】
【北川 衝撃波を受けて吹っ飛ばされる】
【観鈴 なにかしらの力で転倒】