遺志、そして意志――まもるべきもの――
引き金としては十分すぎる光景。
神奈、北川、観鈴――
そして状況の変化に戸惑っていた、ぴろ、ポチ――
部屋にいた全ての者が、そらの魂の雄叫びに圧倒された。
それは溢れ出る記憶――『俺』の現出だった。
やっと観鈴に会えたのに、俺は何をやってるんだ?
あの姫君に好き勝手やられっぱなしじゃないか。
もう残された時間も少ないってのに――
もはや人ではない俺が、俺を俺として認識できる状況になっている。
それは俺自身の崩壊を示唆していた。
烏の器では、俺の人間としての全てを受け止めきることはできない。
『私』の計らいにより延命はされていたが、こうなってしまった以上、崩壊
は避けられ得ぬものだった。もう俺の崩壊は避けられない。せめて、俺と共存
していた『ぼく』や『私』だけでも無事で済むことを祈るしかない。
俺にはもう。
あいつのお守りはできないけれど。
あいつの側にいてやるって約束すら守れないかもしれないけれど。
そうだな、北川。お前になら頼めそうだな。この際贅沢は言ってられないか。
お前はまだ、笑えるんだよな? だったら。
観鈴のこと、頼む――
――国崎往人としての記憶も、意志も、そこで壊れた。
だが、遺志だけは継がれていた。
(ぼくが、なにかをしなくちゃいけない)
その遺志は『俺』のものだった。でもそれは、『私』の、そしてぼくの意志
でもある。
紛れもない、そらの意志。
彼女を。
観鈴を守らなくちゃいけない。
(でも、どうやって?)
わからない。けれど。
観鈴を守らなくちゃいけないんだ。
【そらの中の『俺』消滅、その遺志は受け継がれる】