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現実に抗う者


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 銃声やら凄まじい爆音やらを聞き、精一杯の速さでその場に駆けつけた三人
――観月マナ、柏木梓、月宮あゆ――が見たものは。
 二人の男に、一つの人間だったもの――焼け焦げた死体――だった。
「耕一、大丈夫!?」
「ああ、何とかな。彰の方も何とか無事だ」
 辛い身体で無理して駆け寄ってきた梓に苦い笑顔を浮かべ、耕一は答える。
「これ、は……?」
 あゆが指し示したのは、もはや原型を留めていない焼死体。
「……スフィーさんだ」
 彰はただ冷淡に、告げる。状況を把握していなかった三人は、凍り付いた。
「彼女は、完全に神奈の影響下にあった。神奈自身が降りてきていたんだ。僕
には分かる。もう助けようがない以上、戦うしかなかった。ならば、せめて、
ここで決着を――と思ったんだけど、僕の力じゃ及ばなかった。耕一の助勢が
なければ、むしろ僕の方がやられていたと思う。結局は、神奈には逃げられ、
スフィーさんの死をただの無駄死ににしてしまった」



「それって……」
 この状況を見て、彰の言葉を聞いて、ただ黙っていたマナが口を開いた。
「……つまるところ、そのスフィーさんは神奈とやらに操られてて、あなたが
それを殺したってこと?」
「そう。彼女を殺したのは紛れもなく僕だ。それを否定するつもりはないし、
否定する権利もない。仕方なかったとはいえ、僕は彼女を殺してしまったんだ。
もちろん助ける方法があるなら僕だってそれを使ったさ。でも、そんな方法は
ない。現実的じゃないんだ」
 慌てて仲裁に入るのは、耕一。
「ま、まあマナちゃん、落ち着いて。現実的に考えて、ああするしかなかった
んだ。彼女を放っておいたら、もっとたくさんの犠牲が出てたかもしれない。
彰にとっても辛い選択だったんだと思う」

 そう、この人達。
 言ってることは、正しいのかもしれない。
 でも、ちょっとおかしいんじゃないの?



 マナの中の何か、一般的には堪忍袋の緒と呼ばれるそれが、ぶちんと豪快な
音を立ててちぎれた。

「ふざけんじゃないわよ!」

 この島に来て一番の鋭い蹴りだった。
 それが、彰のすねに命中する。ただでさえ満身創痍の身、彰は何をするでも
なく倒れるしかなかった。
「お、おい、マナちゃ――」
「耕一さんは黙ってて!」
 伝家の宝刀、二発目。病み上がりとは思えぬ一撃。耕一も、もんどり打って
倒れる。
 梓やあゆに至っては、ただ呆然とそれを見る傍観者になることしかできない。
「そのスフィーさんが神奈とやらに取り憑かれてたとして、まずそれを何とか
して助けようとは微塵も思わなかったわけ!? そんなことは不可能? その
挙げ句、スフィーさんを殺すことで神奈とやらも一緒に倒すことができたかも
しれなかった? だから何だって言うの!? 最初から何とかしようと思って
なかったってことじゃない! 仕方なかったから殺したですって!? 自分の
やったことは間違ってないって言いたいだけなんじゃないの!?」
 彰はきっと、自分に神奈が乗り移れば、喜んで己の命を道連れにして神奈を
滅することを選ぶだろう。
 同時に、他人に神奈が乗り移れば、神奈を滅するチャンスさえ残っていれば
その器を殺すことに躊躇はない。
 ぐだぐだと良心の呵責と後悔の念を息巻いてはいるが、結局のところ、根底
では神奈を滅するためなら何だって許されると思っている。自分自身も含めて、
どんな犠牲をもいとわない。だから、神奈に憑かれてしまっていたという彼女
を――スフィーを殺すことに迷いなどなかったのだ。
 しかも、理由を付けて正当化しようとしている。その根性が許せなかった。



 ひとしきり捲し立てた後、息を整えたマナは静かに告げた。

「あなたは、神奈とやらを倒すためだけにここにいるのね」

 ただ地面にうずくまり、マナの糾弾を黙って受ける彰に。

「だったら一緒にしないで」

 それが贖罪のつもりだとでも言いたいのだろうか? ますます許せなかった。

 私だって、何度もこの島での現実に負けそうになったけど。
 でも、私の今を支えてくれるものはあまりに大きすぎて。
 それを捨てて現実に負けることは、絶対にできない。

「私は、みんなで生きて帰るためにここにいる! 現実的じゃない? ちゃん
ちゃらおかしいわね! 諦めちゃった人にそんなこと言う資格ないわよ!」

 そう、それはある意味での諦めだ。
 かつて、彰の親友――藤井冬弥が森川由綺に対して抱いていたそれと、何の
変わりもない。

 彰も、耕一も、何も言い返すことは出来ず。
 梓やあゆは、ただ呆然と見ているしかなかった。



【観月マナ、説教中】
【七瀬彰&柏木耕一、観月マナ&柏木梓&月宮あゆと合流】

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