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光の四柱


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静かにふりそそぐ朧げな月の光のもと。
草木を薙ぐように湿った風が吹きぬけてゆく。
ただひとりだけが、大声で叫んでいた。
小さな少女が、我を忘れて怒りに身を任せるように、言葉を叩きつけていた。

その少女の後ろで呆然と立ち尽くし、無言を保っていたあたし。
ふと視線を感じて、その先を見た。
(……千鶴姉)
岩場の頂上にある施設の入り口に、千鶴姉と繭が立っている。
遠くからこちらを眺めるその姿が、こくりと頷いたように見えた。

大きくひとつ溜息をつくいて、マナの襟をひょいと掴み、くるりとこちらを向かせる。
「-----もう、いいだろ。……言いすぎだよ」
あたしに怒りはなかったから、ごく穏やかなもの言いだったと思う。
だけど再び導火線に火がついたように、マナは激しさを増した。
「何よ!私は誰になんと言われようと、諦めないわ!! あんな言い訳なんて、許せない!」
彼女が繰り出したローキックを、あたしは片足だけ上げてひょいとかわす。
「-----それでも、だよ。
 あたしたちは、実際なにもできてないんだから。
 そこまで言う資格なんか-----あるわけ、ないだろ」
それでもマナは、収まらない。
「偉そうなこと言わないでよ! 私がここに居れば、こんなの絶対許さ-----」

  ぱん

これはあたしが、叩いた音だ。
「-----それだって-----言い訳じゃないか」

 そう言えば、男を叩いたことは何度もあったけど。
 女の子を叩いたことは…なかったよな?



そんなやりとりを、離れた場所から見つめる二人がいた。
柏木千鶴と、椎名繭。
(梓……それに、耕一さんも無事で…)
二人の無事を確認し、千鶴はひとまずの平穏を得た。

だがスフィーさんが死んでいる以上、ひとまずに過ぎない。
「……嫌な結果に、終わったようね」
あの様子からして、神奈備命をどうにかできたようには見えない。
そしてCDの起動ができるかどうか、少々-----かなり、怪しくなった。
「北川に期待するしか、ないですね」
繭ちゃんの言葉と同時に、梓がこちらを見る。
わたしは小さくひとつ、頷き返した。

遠くから放たれる、マナちゃんの怒声が聞こえてくる。
彼女の言っていたことこそが、たぶん本当に正しいことだ。
だが、今は。
「戻りましょう…今は、行動あるのみです」
繭ちゃんが先読みしたように言う。
そう、今は誰かを責めてる場合ではない。
何が正しいか、誰が正しいか、そして何が間違っていて、誰が間違っているのか。
そんな事を言う前に-----動かなければ、ならない。

わたしはもう一度頷き踵を返すと、外を振り返ることなく歩き出した。
刀を握り締め、自らの信じるところを-----行うのみだ。

 …例え誰かに、批難されようとも。

 二人が、そう心で呟いたとき。
 銃声と、衝撃音が鳴り響いた。 



施設の中央に位置する一室。
微かに煙をのこした円形の天井に、血飛沫が到達していた。
襤褸布のように倒れた北川の、収縮せぬ瞳孔に光が射しこんでゆく。

マザーコンピューターに歩み寄る観鈴-----いや、神奈と言うべきなのか-----が紐状の何かの端を
両手で掴むと、縦に引き裂いていく。
ぴりり、と嫌な音が聞こえたような気がした。
不愉快そうに何かを呟く神奈は、元は一本であった白い何かを二箇所に投げ捨てると、毛を逆立てた
猫のほうを睨む。
(……なんだよ、これ。
 プログラムは、作動したんだよな-----?)

飛びつく猫が、片手で無造作に叩き落される。
さほど弾力のないはずの猫が、ゴムまりのように一回バウンドして、無様に転がる。
(発動…してねーのか?
 だったら俺、何のために……)

神奈の両手から光が溢れたかと思うと、次の瞬間メインコンピューターが沸騰したかのように閃光と
炎をあげ、遅れて黒煙が舞い上がる。
音はもう、完全に聞こえなかった。
(…くそったれ……バカみてえじゃねえかよ…)

ディスプレイの映像や情報が、次々に消えていく。
神奈が外部カメラの画像になにやら話し掛けたようだが、聞こえはしなかった。
光が機械の山を蹂躙するうちに、部屋は闇に包まれていった。
静寂と闇の中に、壊れた機械の閃光と炎だけがちらついていた。
(俺…何のために……死んだんだ、よ……)

 (ちくしょう)
 自らのすすり泣きも-----聞こえなかった。



北川の意識が完全に闇に沈んだころ、ようやく自動扉が開いた。
彼が待ち焦がれていた援軍は、まるで手遅れだったのだ。

千鶴と繭は、非常用に設置された黄橙色の光をたよりに部屋を歩く。
しかしそこに、神奈の姿はなかった。そして、烏の姿も。

ただ一人と一匹の死体が、転がるだけだ。
「……北川くん……」
「今度は誰が----?」
繭が落ちていた銃と気絶した猫を拾い、蛇の死体を整えながら、疑問を口にする。
「……判らないわ」
「可能性としては神尾さん、巳間さん、それに七瀬さん…の三人ですね」
七瀬の名を呼ぶときに、少しだけ不安の表情が混じり込む。
千鶴にとって、そういう私情を繭が持つのは、悪い事ではないように思えた。
「そうね。あまり考えたくないけど…入り口から降りてきた途中では会わなかったでしょう。
 階段ですれ違うか、通気口から出たのでなければ…医務室が危ないかもしれないわ」
深刻な顔をして、繭が頷いたその時。

 「心配、ご無用よ」

-----七瀬の声が、聞こえた。
隣には刀を杖に立つ、晴香の姿がある。
「七瀬さん!」
繭が飛びつき、七瀬はその肩を抱きながら尋ねる。
「さっきの話だけど、つまり…?」
「…はい。七瀬さんたちがご無事なら、残っているのは-----神尾さんしか、居ないんです」
「そっか……」
余韻を残して呟くと、七瀬は北川の死体の前でしゃがみこむ。
今思えば移動中、北川は観鈴を気にしていたようだった。
それなのに------それなのに。

(…ねえ、北川? あんたそんなに顔は悪くないのに、昔っから女運なかったよね)
手をあわせて、祈る。
(そんなに悔しそうな顔、しないでよ-----要するに性格に難ありだからだよ?
 たぶん折原とだったらヒネクレもん同士、ウマが合うと思う)
目を開き、立ち上がる。
(だからあいつに、よろしく言っといて。
 …繭も元気にしてるって、伝えてくれると嬉しいな)
そしてふり返ると、皆が待っていた。
「七瀬…北川とは、古い知り合いだったんだよね?」
「-----うん、そうなるのかな」
そして、歩き出す。

 自動扉を通り抜けるとき。
 もう一度だけ、七瀬は振り向いた。

 (…ばいばい、北川)



そのころ施設の外では、五人がせいいっぱい眼を見開いて、遠くを眺めていた。
島を取り囲むように配置された装置。
もちろん彼らの目の届くものではなかったのだが、そこから四本の光の柱が立ち登る。
そしてみるみる間に、天空めがけするすると伸びていく。
徐々に太さを増して行く柱は、月を打ち消さんばかりに眩い。

 死者は絶望の淵に消えていった。
 しかし確かに、彼の希望は達成されていたのだ。


海中から発せられた光は海を照らし出し、空は輝きを増していく。
あの嵐を吹き飛ばした、閃光さながらに島を包んでいる。
「梓さん、これって-----!?」
「うん!きっとCDが……発動したんだ!」
梓とあゆが、抱きあって喜ぶ。
彰と耕一が、ぱしんと掌を叩きあう。

 しかし誰が知っているというのだろう。
 この光が天空に満ち溢れるまでの時間を。 

 そして通気口から彼らを見つめる、神奈の存在を。


【CD起動 魔法発生中】

【ぽち 北川と共に死亡】
【神奈備命 通気口から外へ】
【そら どこかへ】

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