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光に背を向けて


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孤影が、硬い足音を響かせて駆け抜ける。
飛ぶように走る彼女の表情には、何かを考えこむように微妙な困惑の色があった。

……神尾観鈴の身体を、手に入れた。
そして当初に及ばぬとは言え、期待通りの力を取り戻した。
今なら恐れるものなど、何も無いはずであった。
…しかし、あの場に感じた波動。
あれはスフィーという女の記憶にもある、余を封じていた刀の発したものに違いない。
(-----あの刀は-----危険に過ぎる)

更に神奈が走り始めて間もなく、施設の幾層もある天井を抜け、一本の細い光が差し込みはじめた。
神奈は不快そうに眉をしかめ、階段を一段飛ばしで上っていく。
数十段を登りつめた頃、微かに下から追ってくる足音が響いてきたが、それ以上に光が気になった。
日光のように薄く黄色がかった光が、その本数を増やし、天から幾筋も伸びてきているのだ。
(徐々に…降り始めおったか)



「-----ん、もう!」
彰を追う繭は、いとも簡単に距離を離されていた。
教会へ向けて走ったときも、そうだった。
肉体的な強さは何も変わっていないのだから、仕方がない。
それでも歯痒さのあまり、誰にともなく悪態をついていた。

「繭ちゃん!」
階段に到達する頃には、早くも千鶴に追いつかれた。
息を整えるために足を止め、その間に武装を整え、相談する。
「千鶴さん-----だいぶ、離されてしまいましたよ」
「…仕方がないわ。
 単独で追うのは、リスクを考えるとあまりに危険なのだし-----
 -----彰くんは、そういう思考すら捨ててしまっているのかもしれない」
繭は頷く。あの追い方は、異常にすぎた。
親の仇でも見るように、と俗に言うが、まさにその通りなのだ。
そして手を下したのは自分となれば-----むしろ、正常なのか。
「…でも、見捨てるわけには」
「ええ、そういうわけには、いかないわね」
二人で頷き合い、大きく息を吸って、鋭く吐き出すと同時に、階段を駆け上り始めた。

そうして先を急ぐ二人の息が再び切れ始めた頃、ひとつの異変が起こった。
「-----!?」
「この光は……」
細い光が、階段を突き抜けて射し込んでいたのだ。
太陽のように、やわらかささえ感じさせる暖かな光。
千鶴が、その光に掌をかざして、ぽつりと言う。
「北川くん…成功させていたのね」
「北川……」

少ししんみりとした千鶴と繭の二人。
その彼女たちに突進でもするかの如く、耕一と梓が転がり込んできた。
「千鶴姉!繭!!」
「千鶴さんっ!彰は-----ってなんだこれ!?」
耕一が天井を見上げながら、光の柱を不思議そうに見つめる。
「耕一、あの光が差し込んでるんじゃないか?」

「…梓? あの光って?」
耕一に答えた梓に向かい、千鶴が尋ねる。
梓は島外から立ち登る四本の光の柱が、天を光で埋め尽くさんとしていたことを説明する。
「あの調子だと、もっと時間がかかると思ってたけど……」
「いや、既にあの時点で、柱は月より明るかったんだ。
 どこまで光度を上げる必要があるのかは解らないけど、意外ともうすぐなのかもしれない」
それは、あくまで予想でしかない。
だが、この地下まで光が到達するならば-----可能性は、高いのではないだろうか?

「それなら尚更、彰くんを見捨てるわけにはいかないわね」
「うん、千鶴さんの言う通りだ。
 急いで彰の援護に向かおう!」
耕一はそう言って結論すると、ぱあん、と大きな音を立てて自らの頬を叩き、気合いを入れた。
そして息の整わぬ繭を見るや、本人の許可も得ずに彼女を抱え、軽々と肩に乗せる。
「ちょ-----ちょっと!?」
「悪いね、文句は後で聞くよ。
 -----みんな、一気に走るぞ!!」
軽快に三つの足音を立てながら、彼らは階段を駆け上がって行った。



神奈は階段を登りきり、出口を遠くに見ながら足を止める。
既に外に出て確認する必要はなかった。
天は光に満ち溢れ、大気を満たしているだろう。
その余光が入り口から射し込み、また天井を突き抜け、ここに至っているのだ。
(皮肉なことよ…これを一瞬でしてのけおった爺のそれよりも、むしろ不都合じゃな)

源之助の魔法は、一瞬であったがために大気中の念が受けるダメージは致命的なものではなかった。
しかし大気に光が満ち溢れる今の情況で精神体のみになれば、あの光に焼かれて消滅してしまう可能性は
少なくない。
即座に降り掛かってこないのは、幸運なのやも知れぬ。
しかし逆を言えば天に光ある限り、今の身体を失えど天に戻る訳にはいかぬということだ。
小さくひとつ、舌打ちをした。
(この神奈が…追い詰められていると?)
汗がひとすじ、額を伝う。
(…否、これは余の流したものではない。
 この観鈴という軟弱な娘が流したものじゃ……)

両の手に力を込め、気力を保ち考える。
実際にこの光が注がれるとき、再び呪詛を反すことが可能であろうか?
この身体は疑いなく強力であるが、力の蓄積が明らかに足りない。
(最早楽しんでいる余裕などあらぬ-----故に、手段も選ばぬ。
 奴らを皆殺し、力を蓄えて呪詛を反すのみじゃ)

神奈の操る観鈴の顔が、こころの暗黒を映し出すように邪悪に染まる。
そして射し込む光を撥ね退けるように、輝く翼をばさりと大きくはばたかせた。

 そして光に背を向け、彼女は振り向く。
 視線の先に、一人の青年が立っていた。

 「…鬼飼いか。
  まずは、お主から-----死ぬか?」
 「いいや。
  死ぬのは、お前と-----僕だけで、いい」

彰は、光を背負い翼を広げる神奈の美しさに気を取られながらも、即座に理解した。
神奈は、あの光を嫌っている。
そしてそのために、彼女に逃げ場は-----天にも、地にも----無いのだろうと。

 射し込む光が、神奈の翼の輝きに打ち消される。
 しかしその輝きに抗うように、彰は赤い眼光を放っていた。

 互いの視線が、激しく火花を散らしていた。



「ギ、ニャーーーー!!」
「ギャーーーーー!!」
叫んで猫と格闘する七瀬を、晴香は呆れて見ていた。
「ウニャ、ニャギャ!!」
「猫の分際でなめないでよ!あたし七瀬なのよっ!」
遅れて立ち上がったあゆとマナが、猫を助けに来る。
「うぐぅ…虐待だよぅ……」
「……最低」
七瀬を引っ掻きまくった猫は、大人しくあゆの手に納まった。
決して機嫌が悪いわけではないようだ。
「七瀬…アンタに、動物の世話は、向いて、ないわ」
「何よ……うるさいわね」
あゆの鞄から顔だけ出した猫が、今でも七瀬を威嚇するに至っては、全く反論できなかった。
乙女的には、ちょっと傷付き気分である。

四人の歩みは遅い。
それは怪我人の晴香に合わせているからだ。
しかし、ふと気が付くと普通のペースで歩いていた。
「ちょっと晴香?大丈夫なの?」
「あのさ…七瀬…もう、離して、いいよ」
そう言いながらも、こめかみのあたりを抑えている。
「何よ、痛むんじゃないの?」
「ううん…あんまり痛くなくなってきた気がする」
「薬が、効いてきたのかしら(それとも……やっぱりレディースは、気合いが違うのかしら)?」
「……かも、ね(七瀬のあの顔…ろくなこと考えてないわね)」

 互いの視線が、激しく火花を散らしていた。



【神奈 入り口付近で停止】
【彰 神奈と会話中】
【耕一、千鶴、梓、繭 彰を追って階段を登り中】
【七瀬、晴香、あゆ、マナ 更にその後ろを追跡中】
【CDによる自動魔法】

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