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呪夢


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バサッ!
翼を広げ、空中で見を翻す
(・・・これ以上油断しない、じゃと?
いつでも殺せたものに止めをささなかった事こそ
油断というのではないのか!?)
己の愚かさ加減に腹を立てる・・・
が、身を焼かれる感覚によってその思考は中断される。
強烈な光が世界を包んでいる。
常人にはただのまぶしい光に過ぎないが
神奈にとっては砂漠の日差のように体力を奪う毒の光。
素早い判断で次の戦場を光の弱い森の中と定め、木々の間に飛びこむ。

ここにきて、始めて神奈の中から「遊び」という感覚が完全に消えうせた。
毒を浴びながら戦ってこの光を返す事が出来るのか・・・真剣に計算する。
安らかに逝ったとはいえ鬼の女の死によって得た力は予想以上だった。
(鬼はまだ3匹もおる・・・全て殺せればこの光の分は取り返せよう
それに・・・手駒に与えておいた力も失う前に返してもらうとするかの)
それで成功率は6割。
逆を言えば4割の確立で失敗する予測になる。
それに今のような不測の事態というのも十分にありうるのだ。
もし次の戦いでもヘマを撃ったなら・・・光に焼かれてこの身は消滅する。
もし助かったとしても刀に封印されて空で見続けていた夢に戻る事になるだろう。
(・・・・・・・・・夢に戻るじゃと!?冗談ではないっ!!)




ギィィィン!!
刀と刀がぶつかり合う音。
一瞬火花が散り、大男の手から刀が離れた。
「くっ!」
大男はとっさに身を引くが、遅い。
ドゴッ!
「ぐあぁっ!」
振り下ろされた刀の背が大男の鎖骨を砕き、勝負は決した。

最後の敵が意識を失った事を確認し、
「ふぅ」
と言う溜息と共に刀を鞘に収め・・・
・・・男は地面に崩れ落ちた。

「柳也殿っ!!」
たまらず裏葉とともに草むらを飛び出し、柳也の下へと駆寄る。
柳也の衣は背がぱっくりと口を開けており、
その下に走る朱の一文字が顔を覗かせている。
それは、ともすれば致命傷となりかねないほどの深い傷だった。



「どこだ!?どこに行った!?」
「まだ近くにいるはずだ!探せ!」
夜の森に男達の声が木霊する。
それは、敵の声。
自分だけがが生き残るために余を殺さんとする下衆どもの声。


・・・・・・何故・・・・・・
何故余だけが狙われねばならぬのだ?
これは殺し合い・・・
敵も見方もない殺し合いではないのか?
何故、奴等は申し合わせたように余を狙うのだ?


「いたぞっ!!」
一際大きな声がすぐ側から響く。
刹那、裏葉に手を引かれて走り出す。
無数の敵が群って来る。
「こっちだ!女も一緒にいるぞ!」

・・・余のせいか?
・・・・・・余がいるから、この二人も狙われてしまうのか?

飛び掛ってきた男が一太刀で地に叩き伏せられる。
それを見ていた者達の間に緊張が走る。
「こ、殺不の太刀など!恐れる必要ないっ!!」
そう叫び、次の敵が襲い掛かってくる。

・・・余のせいか?
・・・・・・不殺を命じたのは間違いであったのか?



僧衣に身を包んだ大男。
鎧の下にぎらついた瞳を隠した男。
徒党を組んで弓をいってくる男達。
斬られては立ちあがり、斬られては立ちあがり、
どんどん数を増やしながら休む間もなく襲い掛かってくる。
男達はいつの間にか人の形をなさなくなっていた。
敵という概念。
襲い来る恐ろしいモノという概念。
黒く霞んだ体に爛々とした眼だけが光る、人らしいモノ。

黒いモノが狙うは神奈1人。
だが神奈が傷つく事は無い。
神奈のかわりに、神奈を護ろうとする二人が傷ついてゆく。
黒いモノは次々と襲い掛かってくる。
襲い掛かってくるモノは次々と切伏せられる。
だが、不殺の刀が黒いモノを殺す事はない。
切伏せられてもすぐさま起きあがり、再び襲い掛かってくる。

考える。
どうしてこうなったのかを。
考える。
どうすれば三人が助かるのかを。
考える。
どうすれば二人を助ける事が出来るのかを。
考える。
自分は何が出来るのかを。



ついに柳也が力尽き、地に膝をついた。
柳也の力は夢の主の信頼に比例する。
その柳也が力尽きて、敵の前に無防備な姿を晒している。
それは、夢の主があきらめたということ。
殺してはならないという偽善も、
人に頼って助かろうという希望も捨てたということ。
柳也に向けて、最後の一撃が振り下ろされんとした瞬間――

「殺せばよい。
余の事など見捨て、生き延びるために敵を殺せばよいのだっ!!」

自分がいなくなれば柳也と裏葉は狙われる事がなくなる。
だから二人とは別れる。
「殺してよい」と言って、二人のもとから駆出す・・・
・・・・・・つもりだった。

「柳也・・・・・・殿・・・?」
様子がおかしい。
黒いモノの動きはピタリと止っている。
柳也がゆっくりと立ちあがる。
裏葉の短刀を持った手がだらりと落ちる。
そして、ゆっくりと振り返った二人の姿は、二つの黒いモノになっていた・・・



「柳也殿っ!」
夏の昼下り。
「どうして!どうしてこんな事になったのだっ!?」
深い森の中を走る一本の山道。
「りゅうやどのぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!」
少女の叫びが木霊している。
地に伏せた男と、男にかぶさるようにして泣き続ける一人の少女。
少女は呼びつづける。
もう決して帰ってこない男の名を。
少女は揺すり続ける。
もう決して目を覚まさない男の肩を。

少女は、

男の肩を揺すりながら、

それでも、

右手に握った物を、

手放さないでいた。



男の命を奪った

血塗れの短刀を・・・




千年、二つの夢を繰返し見続けていた。
ひとつは、普通の少女として、普通に生きようとして、
普通の幸せすら掴めずに死んでいく夢。
ひとつは、殺し合いの中で、殺し合いをして、
大切な人を殺してひとり生きのびる夢。


永遠に繰り返すと思っていた夢は、FARGOという組織によって中断された。
FARGOは、呪いの一部を力として抽出することに成功した。
その力を使う事で神奈は悪夢から開放される事が出来たのだ。
呪いから逃れるためにはこの力を維持しなければならない。
呪いの源は人の死、嫉み、怒り、悲しみといった負の波動。
呪いから作られた力もそれは同じ。
FARGOの作った呪いを力として抽出する装置は再起不能らしい。
ならば定期的に人の負の波動を集めなければならない。
効率よく負の波動を集める方法・・・・・・それを彼女はよく知っていた。
手始めにFARGOを、そして世界でも有数の力を持つ長瀬一族を裏で操り・・・

そして、悪夢は現実になった。



(・・・・・・・・・夢に戻るじゃと!?冗談ではないっ!!
二度と、
二度とあのような世界に戻るものかっ!!!)

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