けもの達の集う場所
「うぐぅ………」
「だから言ったじゃないの」
「だ、だって………」
あゆが何かを言いかけた時、首にかけたバッグからぴろが飛び出した。
「あっ!」
追いかけようとしたが上にのしかかった人の重さで立ち上がることは出来なかった。
「ま、待って!」
後ろからかけられる声を振り切るようにしてぴろは走り出した。
『クッ………』
傷が痛む。
体がバラバラになりそうなほどに。
それでも俺は走り続けていた。
あの女を捜し出すために。
五感の全てを最大限に発揮してあの女の居場所を探る。
――俺はあの女を許せない――
ぽちは俺の目の前で無惨に殺された。
そらも生きているのかどうか分からない。
何故俺のようなろくでもない奴だけが生き残ったんだ?
俺はポテトとの約束を守れないような馬鹿だぜ。
だからせめて敵だけでも取ってやる。
例え俺が死んでも。
――それ以上に俺は俺自身を許せない――
悪いな、そら。
お前が大事だと言っていた女を。
あの世でポテトとぽちにお前の分まで謝ってやるから勘弁してくれよ。
俺はあの女がいる気配を感じ取るとその方向に向かった。
「うおおおおおおおおおおお!」
森の中を一匹の獣が走っている。
片腕を無くし普通ならば生きていることさえ不可能な傷を受けてもなお僕は生きている。
(ちっ、乗っ取れたのは半分だけか)
僕の頭の中で僕ではない声が響く。
だがそんなことは今の僕にとってどうでもいい。
傷の痛みすら感じない。
今の僕に取って大事なのは神奈という女を殺すことだけだ。
それだけが僕の使命。
それだけが僕の生きている理由。
(まぁ、いい。どうせこの宿主も長くはない。最後の狩りを楽しむとしようか)
また、声が聞こえた。
今の僕を突き動かしているのは僕自身の意志でありこの声でもある。
今まで僕が抗ってきたモノ。
だが今の僕とこいつの利害は一致している。
ならば抗う必要など微塵もない。
(………あっちか)
頭の中の声が指し示す方向に向かう。
初音ちゃん。
もうすぐ君に会えそうだ。
でも、その前に―――。
「あの女を殺す」
(あの女を殺す)
観鈴、どこだ!
ぼくは空を飛び回りながら必死で観鈴を捜していた。
ぼくが気が付いたときには、何故かぼくは施設の外にいた。
傍らには口にくわえている人形が落ちているだけだった。
気を失う前にぼくが見た光景。
観鈴が何者かに体を奪われていくのを見ているだけしかなかった。
ぼくは無力だった。
恐らくぴろ君やぽち君も殺されてしまったのだろう。
あの何者かに操られた観鈴によって。
ポテト君、ぴろ君、ぽち君。
文句はぼくがそっちに行ったらたっぷりと聞くから。
だから、今だけはぼくの好きにさせて欲しい。
ぼくは観鈴を救わなくてはいけない。
例えこの身が滅びようとも。
例え何の力が無くても。
観鈴を守れるのはぼくだけだから。
観鈴を守る。
それは間違いなく「そら」と言う個体としての意志。
そしてそれがぼくがこの島に存在する理由。
ふっ、と風が流れるのを感じた
ぼくは根拠もなくその方向に観鈴が居るのを確信した。
ぼくは何の躊躇いもなくそこへと向かって飛び立った。
それぞれの目的でけもの達は集う。
同じ場所を目指して。
【ぴろ そら 彰 神奈の元に向かう】