すくうもの


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「がんばりましたね」
「ああ、もう死ぬほどにな」
「ははは、そうですね」
「それにしても、また、会えるとは思わなかった」
「……そうね」
「母さん」





空から降り注ぐ、まぶしい光。




目の前を覆う、暗い闇。




涸れ果てることのない、忌まわしい水。




余の両手についているのは、だれの血だ?


「柳也、殿?」
地面に倒れ伏している、ひとりの男。
背中を、斜めに赤く大きな深い傷。
右手には血塗れの太刀をにぎったまま。
左手は土くれをつかんだまま。
倒れても、立ち上がろうとして果たせなかったのだろう。

――また、同じ夢
神奈は分かっていた。これは現実ではない。
呪いだ、ということを。
だが、彼女は抗うことはできない。
両の目は、涸れることなく涙を流し。
両の手を、柳也の血で赤く染めて。

――また、同じことが繰り返される。
     何日も、何ヶ月も、何年も、何十年も、何百年も、何千年も……


「あらあらまあまあ、親子水入らずのときにすいませんね」
「……誰、あんた?」
「これ、口を慎みなさい、まったく相変わらず口が悪くて……」
「うふふ、殿方はそれぐらい元気がある方がよろしいですよ」
「恐縮です」
「だから、誰、あんた?」


「柳也……」
赤いからだにすがりつき、神奈は泣く。
暗い森の中に、いつまでも少女の嗚咽が木霊している。
――どうしたの?
「柳也が、柳也が……」
――何で悲しいの?
「余のせいで、柳也が……」
――何で泣いてるの?
「柳也が死んで、死んで……」
――いつまで泣いてるの?
「そんなこと、知るか……」
――いつまでそうしているの?
「余だって、いつまでも泣いていたくはない。だが、柳也が……」
――泣きたくないのなら、いっしょに遊びませんか?
「えっ?」


「私たちはこれから、神奈さまの呪いを浄化するのですけど」
「さま? 母さん。なんであんなヤツにさまをつけるんだ」
「そうですわね。貴方に悪戯ばかりしてましたからね」
「悪戯って……あれがか?」
「それで浄化はけっこう時間がかかるので、その間に頼まれごとをしてほしいのですが」
「で、いったい何をすればいいんだ」
「神奈さまと友達になってください」
「はぁ?」


どこからともなく聞こえてくる、声。
「誰だ!」
神奈は涙をぬぐい、辺りを見回す。
『いつもと、違う。余はここで独りのはず』
闇の中に包まれた木々の中、ぼうっと光るものが見える。
『?』
それは、徐々に神奈に近づいてきている。
光はだんだんと人の形をつくり、大きくなっていく。
奇怪な光景、だが、不思議と恐ろしくはない。
やがて、光は薄れ、そこに立っていたのは、ひとりの少女。
「おまえ、は……」
「みすず、だよ。神奈ちゃん」


【謎の声A、B、C会談中】
【観鈴、神奈の夢の中に】

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