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脱出口


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いつのまにか、それぞれが埋葬をはじめていた。
さく、さくと土を掘る音と、もう誰のものとも分からないすすり泣きだけが響いていた。



場所は医務室に移って。
皆 一通りの治療を終え、今後の対策を練っていた。



「脱出の話なんだけど……」切り出したのは耕一。
「案があるわ。」すかさず七瀬が口を挟む。
「北に灯台があるの。そこの地下に高槻が隠し持ってた潜水艦があるわ。
きっとそれで脱出できるはず。」
とりあえずミサイルの事は出さないでおいた。
「潜水艦、か……」
その事は耕一も承知していた。他の脱出方法が「無い」ことの確認の発言だったが、その役目は全うされたと言える。
おやはり、それしか方法がないのだろう。それを踏まえて、耕一は喋る。
「誰か一人残して爆弾を吐けば、迎えでも来るんだろうけど。」
「でも、それだと助かるのは一人じゃない。そりゃ物騒な方法もあるけれど……」
晴香がそこまで言い、口をつぐんだ。
もう、誰かが死ぬのはたくさんだった。
「……決まり、ね。」

施設を出るとき、耕一は1度だけ、彰を埋めた場所を見やった。
「……じゃあな、彰。」
一言、そう、呟いた。
刀は持っていく事にした。下手に折りでもしたら、また「奴」が出てきかねない。
家の仏間にでおいておこう。そう思っていた。
ついでに、刀が刺さっていた人形もポケットに入れた。こっちの方は、まあなんとなく。
「行くか、梓。」
梓は、あいにく足の怪我が深く、あまり長距離の移動は無理なようだった。
「うん……ごめんね、耕一」
「気にすんなって」
梓の脇に肩を入れる。なんとかなりそうだ。
先頭には晴香、七瀬を立ち、一行は一路、灯台へと────



灯台から、例の通路をくぐり、地下ドックへ。
「このじめっとした空気……傷にしみるわね……」
先頭の二人は絶えず何がしか喋っているが、後ろを付いて歩くものは当座黙っていた。
「見えたわ……あれよ。」
二人の指差す先には、みすぼらしい球状の物体が────
その「潜水艦」を見たとたん、その二人を除く全員が色を失ったのは言うまでもない。

「ちょっと……まさかこれが、潜水艦……?」
耕一に支えられている梓の声からも、無論の事驚愕の色が浮かんでいた。
「うぐぅ……これ、動くの……?」
あゆなどは既に涙目になっている。
「みゅー……」
繭もそれに習っていた。その目は「これに乗るの?」と語っていた。
おそらく二人乗りと思われるその潜水艦は、あの高槻の持ち物とは思えぬほどに控えめなスケールだったのだ。
「宇宙……いや、海の棺桶みたいだな……」
誰にも聞こえないように、耕一が呟いた。



気を取りなおして、一行は操縦方法の把握に入る。
晴香がドラ○ンレーダーミニとでも言うべき電子画面を見ながら言う。
「このへちょいのがレーダーらしいわね……七瀬、そっちは?」
「ダメ……FUELっていうメーターが燃料って事くらいしか……」
「そもそも操縦桿っていうのはないのかしら……この海賊船の舵みたいのがそうなのかしら」
「みゅー……」
繭は、あいも変わらず七瀬にくっついている。そしてそのまた付属品、猫もまた、繭の足元に。
ぶつぶつ言いながら、二人はボール……いや潜水艦の理解に明け暮れる。

残る者はドック内の捜索に入っていた。何か見落としている脱出方法があるかもしれないからだ。
「耕一さん、これなに?」
あゆが指差した先には、プラスチックのふたで覆われた赤いボタン。
学校の非常ボタンについてるような、あれだ。もっとも、その上に赤いランプはついてなかったが。
「ふむ……サーフェイス トゥ エアー……って何だ?おい梓」
「あ アタシに振られてもっ!」
「Surface-to-air 地対空 ですね」
見かねたと言う感じでマナが口を挟んだ。二人はうつむきかけたが、いまはそんな状況ではない。
「地対空……ミサ……イル?」
随分と突拍子もない話だったが、何故かすんなりと受け入れる事ができた。
常識と言う感覚は既に麻痺しているようだった。もっとも、それは今に始まった事ではなかったが。
始まりは────そう、高槻があの女の子をナイフで殺したところだったろうか?

「ミサイルに乗る青年……か」
ぽつりと、耕一が呟いた。
「耕一……まさかアンタ、これに乗って脱出しようなんて考えてるんじゃないでしょうね」
耕一に支えられながら、先ほどとは異質の驚愕の表情で梓が言う。
「う……で でもさ、あの潜水艦に俺達7人…と一匹が乗るのは……空気の問題もあるし。」
「潜水艦と言っても、どこか他の陸につくまで潜水しっぱなしでなくてもいいじゃないですか。
ハッチを空けて海面に浮かんでいれば、空気の問題は解決できます。」
冷静な口調でマナ。
「それでもここは地下だぜ?ここから出すにはあの潜水艦に乗らなきゃ……」
「だったらあとの人たちは上で待ってればいいんだよ」
さすがにあゆに突っ込まれる事は予想していなかったのか、耕一の表情が沈んでいく。
「ぐ……うぐぅ…………」唸る。
「あっ ボクの真似しないでよう!」突っ込む。
ここに来て、何故かあゆは一人、元気だった。

「………なるほど、誰かがコイツを動かして、近くの海岸で残りの人を拾う、と。」
耕一からの説明を聞き終えた七瀬、晴香の両名は頷きながら呟く。
「ああ。ここからまっすぐあがっても崖だしね。ちょっと手間だけど多分 それが最良だと思う。あとは……」
誰が潜水艦を操縦するか。
「………潜水艦の操縦をやってみたい人。挙手。」
誰も手を上げない事を前提に、耕一がきいてみる。
手を上げないどころか、耕一さんお願いしますとか言われるんだろう。多分。

その予想に反して、三人、手を上げた。
七瀬と、晴香。少し遅れて、繭。



「指紋、照合しました。操作系統のセーフティロックを解除します。」
無味乾燥なアナウンスが響く。聞くなり、七瀬は手にした「手首」を荷物の中に戻した。
ごとり、と言う音がした。どうやら物理ロックだったらしい。安物だ、と七瀬は思った。
「なるほど……指紋照合か……」ハッチの上からのぞいていた耕一が思わず言う。
さすがに女の子が造作も無く荷物の中から手首を取り出したのには驚いたが……

「三人とも、やれそうかい?」
「この舵みたいなので動かすみたいね……でも……」
人手が、足りない。
高槻の持ち物だからか、設計者がひねくれていたのか、それともよほどの急ごしらえだたのか……
操縦桿と、レーダー。それに、地図。コンパス。窓。
それらすべてが、それぞれ別の位置に配置されているのだ。
「これ作った人間は何考えて作ったのかしら……」思わず、七瀬が洩らした。
「耕一さん、もう一人くらい、だれか乗るように────」
晴香が言い終わるより、速く。
「ボクっ ボクが乗るっ!」
能天気と言って差し支えない声がした。
「────言ってくれないかしら。」
無視。
「うぐぅ〜 ひどいよ〜」

「本当に大丈夫かしら……」
晴香がため息をつく。結局、あゆに押し切られたのだ。
「アンタ、本当に大丈夫なんでしょうね。まさか興味本位で乗ったんじゃあ……」
七瀬が釘をさした。
「大丈夫だよ〜 ボクがんばるよ〜」
しかし、その瞳が好奇心に輝いているのを、二人が見逃そうはずもなかった。
ボクは今から、センスイカンに乗るんだ!目は口ほどに物を言う。
「……はあ」
今度は、二人同時にため息をついた。



「じゃあ、いいかい?エンジン始動するよ?」
耕一の声がスピーカー越しに響く。

もともとこの潜水艦は地上で内部気圧などを操作し、かつそこで指示を出しながら潜水させる
「探査船」のようなものだったらしい。だから、始動スイッチなどが地上のドック内にあるのだ。
もっともそこは改造品らしく、潜水艦内部でも大まかな作業は行えるようになっている。
潜水艦にはケーブルがついており、この範囲内ならドックから電力を供給できるので燃料を気にしなくて済む。
燃料を気にするのはケーブルの範囲から出た後でいい……らしい。
操縦席には、ちゃっかり切断ボタンらしきものもついていた。プラスチックのふたが被さっていたが。
本来はドックで誰かが潜水艦まわりの装置を監視しなければならないのだが
下手にいじるよりも、ということですべてオートにしてある。これも、ケーブルの範囲内での話だが。



晴香はコンパス。あゆはレーダー。繭は窓。地図は猫。配置は決まった。

「ここから東に進んだ一番近い海岸で集合だ。いいね?」
「はい。始めて下さい、耕一さん。」
そして、舵を握るのは七瀬。スピーカーは舵の近くについていた。もっとも、すぐに使われなくなるが。
ヴォン……スクリューが回転し始める。
「行くわよ……」
七瀬は目の前の「Descent(下降)」ボタンを押す。
浮上、下降、前進はこのボタンで切りかえるらしい。
ゆっくりと、手元のレバーを押し込んでいく。
下降するエレベーターに乗っているような感覚が襲った。少し、お腹の傷がうずいた。

希望をはらんだ船は、静かに、暗い海に沈んでいく。
それを見届けると、地上に残った者たちは、ドックを後にした────

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