晴香の旅


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旅を始めて三ヶ月がたった。
結構慣れてくると楽しいものだ。
野宿もFARGOに比べればましだし、なにより、バイクに乗っている間、全てを忘れられた。


私は悩んでいた。
100人中生き残りは7人。
この場合生き残った7人は、どう生きていけばいいのだろう。
みんなのためにも未来を生きる。
みんなの分も生きていく。
そう、93人分の未来の分まで。

そんな難しいことできません、と。

考えても、考えてもわからない。
そもそも明確な将来の夢があったわけでもないのに、この事実は重かった。
あえて将来の希望を言うなら、良祐がいて、郁未がいて、由依がいる。
それだけで良かったのに。

みんなはどうなのだろう?
前に向かって生きているのだろうか?
私のように道を見失っているのだろうか?



そんなある日、良祐が私のために貯金をしてくれていたことを知った。
額はかなりあった。
FARGOの給料はそれなりにあったらしい。
生前、届けに来てくれれば良かったのに、勇気が出なかったのだろう。
本当に、本当に意気地なしだ。

その金で私は旅をすることを決心した。
理由はいくつかあった。
貯金しないで使ってしまうことによる良祐への仕返し。
この日常からすこしでも逃れたいという思い。
そして、これが一番の理由なのだが。
またバイクに乗りたい、乗って旅をしたい。
バイクに乗った経験は、あの島の中で数少ない、良き思い出だった。

学校はすぐにやめた。未練はない。
一番の問題はバイクだった。
免許もない17歳の私には法的には乗る手段がない。
何度店に掛け合っても、売ってはくれなかった。
しょうがないので、もっている家を探し、直接交渉に出た結果、なんとか売ってくれる人を見つけた。
奇妙なことに、島で乗ったのと同じ物だった。


こうして私は旅にでた。
無免許だけど。



目的も無く旅を続ける内にある一つの田舎町に到着した。
そこはどうやら観光地らしい、落ち着いていて、良い雰囲気だ。
バイクを走らせていると、楽しそうな浴衣の観光客が目に付く。
それを見て、脳裏に郁未や由井と三人で温泉に行き、楽しんでいる自分が思い浮かんだ。
涙をちょっとでた。
走りながら涙を拭いた。

その時。

ドン!!

歩行者とぶつかった。



跳ねられた人の骨格はもはや人の正常位置ではなかった。
非常に危険な状態だ。
自分のことなど忘れていた。
もう死なせたくなかった。
助けたかった。
だから、跳ねた人のところへ一目散に駆け寄り。

頭突きを食らった。

何故か懐かしかった。
それもそのはず、跳ねたのは、

「赤信号で突っ込むなあああぁぁぁっ!!」

七瀬だった。
倒れている七瀬の骨格は何故かまだ変だった。

【晴香は通夜のことは知りません】

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